七月の放課後。
部活も終わり、いつもどおり近藤さんと山崎と土方さん(俺はイヤだったが)で下校しようとした時だった。


「あ!」
「どうかしやしたか 近藤さん」
「いや…なぁ、ちょっと教室にノート忘れちゃった。わ、悪いがおまえら先帰っててくれ」

「ノートぐらい別に置いて帰ってもいいだろ」

土方さん、そりゃあ聞いたらいけないでしょう。と内心俺は思った。
近藤さんの言っているノートはたぶん、あの焦りようから人に見られてはいけないものだ。

人に見られてはいけないもの=志村 妙に対する思いをつづったポエムノートのことだ。

俺がそれを知っているのは近藤さん家にいったときに山崎が近藤さんのいない間に机の引き出しをさぐって見つけたからだ(俺がやるように言ったのだが)
そのポエムノートを見つけた時、俺と山崎は大笑いした。もちろん中身も見た。また大笑いした。
このことは誰にもいわずに黙っていよう、と近藤さんの事を思ってか山崎が言った。自分だってあんなに笑ってやがったのに…と思ったが俺は何もいわずに承知した。

よく考えたら、それがはじめて二人したで隠し事だ。


「じゃあ、近藤さん俺もついてくよ。俺も職員室に少し用があったんだった」
「本当かトシ!じゃあさっそくいこう!! 山崎、総悟また明日な!!」

そう言って近藤さんは土方のクソヤロウを引っ張って走っていった。

俺は土方さんの職員室への用なんて毛ほども知りたくもないのだが、なんとなく分かってしまう。
いつデキたのか知らないが、多分銀八と会うためだ。

ぽつんと残された俺と山崎。

「じゃ、帰りますか」

と、何か諦めたような声で山崎が言った。

そういや、二人だけで帰るのもはじめてだ。


山崎は自転車登校なので俺のかばんを俺は無言で山崎の自転車のかごにつっこむ。
山崎は、最初文句を言っていたが、俺の顔をふと見て、 あぁ、も−分かりましたよ。といって諦めた。

山崎は諦めが早い。






さすが夏の夕焼けとあってまだ日からオレンジの光が照っていた。
山崎は歩きの俺に合わせて自転車を手で引いて行くつもりらしかったが、俺は、後ろに乗せろ、と言った。

「別にいいですけど、じゃあかばん持ってください」

そういって返事も聞かずに俺にかばんを持たせた。

学校を出ていつもの景色を見る。
二人で帰るのははじめてで正直なにも話すことがないので、景色をぼぉーと見る。
で、たまに山崎の後ろ姿を見る。少し長い後ろ髪が邪魔くさいのか一つに小さくまとめて結んである。

俺は、それを ぐぃ、と引っ張った。

「うわ!」

なんとも情けない声が返ってきた。
なんですか、もぉ− と、振り向いて俺の顔を見る。
そのときの山崎の顔はなんとゆうか、小さいガキのいたずらに困っているような顔だった。
 
「なんか、その小さくまとめてあるのがうぜぇんでさぁ。もうばっさり切っちまえよザキ」

「…それ前に土方さんにもいわれました」

苦虫を噛みつぶしたような顔でそういった。
自分、髪切ったほうがいいですかね−、と言ってまた前を向く。
俺はまたぼぉ−として景色をみる。

頭のなかでさっきの山崎の声がする。

『それ、前に土方さんにも言われました』


だったら早く切ればいいのにと思う。

土方に言われても切らないのは何でだ。

俺はやる事がないので考える。

またそのうざってぇ髪が土方さんの視界に入ったら、絶対不機嫌な顔をして、゛その髪なんとかしろ″と言われる。
きっと土方さんの事だから(あいつは細かいから)見る度そう山崎に話しかけ注意することだろう。


俺はそこで思考を停止する。
ああ、そうか、と俺は思う。そしてなんとも山崎らしいことをするな−、と感心する反面、
確信をついてしまった。とも思う。

俺はかばんから持ち手がオレンジの鋏をとりだした。


「山崎」

はい? と山崎はこっちを見た。

ほぼ同時だった。

山崎が俺を見るタイミングと、

土方さんに、切れよ、切れよ、 と言われていたのに残っていたあつかましい髪の束がとんでいったのと。



「…な、 なにしてんすか!?」

一瞬固まり、すぐに大きな声をだして焦る山崎。

「ざまあみろ」

俺はなかなか本心は口にしないが(土方に対する思いは本心)今のはなんの誤魔化しもない言葉だった。





山崎は諦めがはやい。
のくせまだ落ち込んでるので、

「まあ、すっきりして男前になりましたよ。いや、これマジの話でさぁ」

と言ってやった。
これは本心なのか土方という存在がいたから言った言葉なのか自分でもわからなかった。

「それ、マジですよね?」

まんざらでもなそうな声でちらっと俺の顔を見る。
俺は、ここでニヤリと笑う。

まるで小さいガキがいたずらしたような顔で。














「山崎ぃ」
「なんすかぁー」
「アイスおごれ」
「えーアイスですかぁー」
「男前にしてやったんだ。それぐらいしろ」
「いや、それせめて俺の許可とってからやって欲しかったな。つか、勝手に切っただけですよね」
「……………」


はぁ、と山崎は軽いため息をついた。


「今回だけですよ。こんな出血大サービス」



















策略の髪と黄色い鋏

俺が思うに山崎のいいところは、諦めが早いところだ。


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