「先生ぇ」
「うわ」
「・・・なんですか。」
「別に思っただけ。」
「・・・・・・」
「で、なに?」
「先生には、気になってる人とかいないんですかぃ?」
先生は少し意外そうな顔をした。
それから少し上を見て、また俺を見た。
「さあ?」
そう言った先生の顔は、いたって普通だった。
俺はそうですか。と答えた。すると先生はにやりと笑って、
「俺が土方とデキてると思った?」
その時、腹の奥でどくんと音がした。先生がいった言葉はとても重く、破壊力があった。
でも俺は顔には決して出さない。ポーカーフェイスは得意なほうだ。
「…ええ、てっきりできてんのかと」
先生の視線が刺さる。少し汗をかいていた。
「できてなくてがっかりしたろ。」
にやっと笑った先生の顔を俺は無性に殴りたくなった。体が熱くなるのを感じた。
なんでって図星だったからだ。握りこぶしをぎゅっと作った。自分に冷静になるように言い聞かせる。
「ええ、」
自分がまだ何か言うなんて思ってもいなかっただろう。
先生は意外な顔をした。
「ホントに、」
この人はきっと土方の気持ちも俺の気持ちも気付いてる。
「残念ですよ。あんたと土方さんがくっついてないなんて」
さっきの熱はどこにいったのか、でた言葉は冷静そのもので、俺は本気で怒っているのだと実感した。
「・・・で、なんで分かったんですかぃ」
「大人、だからね」
ずるい、
職員室をでて廊下をまっすぐ歩きながら俺は思った。
ずるい。
ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい。
あの人は俺が山崎を好きな事も土方の好きな人が自分である事もずっと前から知っていたのだ。
俺はくやしかった。
なんとしても聞き出したかったのだ。
そうゆう術しか知らない俺は自分が嫌になった。
その場でしゃがみ込んだ。
大人という生き物
「(大人はずるい)」
そう強く思った。