七月の空とは思えないほどの曇り空で、空一面に灰色の薄い膜が張ってあるようだった。
俺は屋上のフェンスに手をかけ、そこから見える空と建物を見ていた。

ここから両手を広げて落ちれたらどれほど気持ちいいだろう。
風を全身に浴びて、汚いモノなど全部風で飛ばされていきそうだ。
こんなアホなことを考えるなんて、ジメジメした日のせいなのか、疲れているのか。
たぶん後者だ。

あーあ、と言って俺は仰向きに寝転がる。
もうこのまま寝てしまおうか、そう思い目を閉じた時、



「おい」

誰だよ、うるせぇな。

「風紀委員がなにサボってんだ。」

目を開くと、ヤツがいた。

「先生じゃないですか」

さっさと起きろ、と言って軽く頭を足でコン、と蹴られた。
きたねぇー、と言いながら銀八を見る。

「先生こそなにしてんですか」
「サボってる生徒がいないか確認しにきた」

嘘くさい理由を言いながら、銀八は白衣のポケットからタバコを取り出して、口にくわえた。

「タバコ吸いにきただけじゃないですか」
「いやいや、タバコなんてどこでも吸えるよ?」



確かに。
先生はよく教室でも口にタバコをくわえていた。
指摘されても、これはレロレロキャンディだからと、まったく反省の色はなかった。

そのたび土方はため息をついていた。



「先生、いい加減にしねぇと愛想つかされますぜ」

土方に、とまでは言わないが。

「総一郎君が止めてくれってんなら止めるけど」
「総悟です。 まあ俺はどっちでもいいというか、どうでもいいといいうか、」

先生は少し笑ってから、
そう言うと思ったよ、と言った。

「じゃあ、聞かなくてもいいじゃないですか」
「総一君から聞きたかっただけだよ」



先生はそう言うと俺の隣に座った。
タバコの臭いが濃くなった。なんだか甘い匂いもうっすらする。

「先生の体臭は甘い匂いなんですかぃ?」

そう聞いたら、
よくわかったね と言われた。

「先生は、なんでここに来たんですか?」
「さあ、なんでだろーな」





そういえば、あのため息をついた土方さんはどんな顔をしてたっけ。
まったく、しょうがねぇ奴。と思ってる顔だったっけ。

「先生は俺に会いにきたんですか?」




土方さんの顔が思い出せない。
そのとき山崎は土方さんを見ていたなぁ。
じゃあ山崎の顔は?



「すごいじゃん。よくわかったね」



「(あ、)」






そういった先生の顔は、たぶんあの時の土方の顔で。
たぶん今の俺はあの時の山崎と同じ顔をしているだろう。


先生はタバコを一本吸い終えて、立ち上がると、戻って行った。
匂いが消えた。甘いのもヤニ臭い苦いのも。
屋上で一人になって俺は仰向けから体を右に傾けた。






















かない子供



「土方が俺で、俺が土方ならよかったのに」



誰にも聞こえないように呟いた。













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