ある日の夜の事。
俺は家庭訪問のため、高杉の家にいた。いつもなら夕方には帰るのだが、
今日は仕事で疲れていたし、高杉もどっちでもいいようだったので、 もう少し居ることにした。

「っか、銀八。あれ持ってきたかよ」
「あー。持ってきた、持ってきた」

高杉が俺に頼んだのはクラス写真。
俺が家庭訪問に来て、日の浅い内はとりあえず話す事もないのでクラスの話をしていた。
かなり個性的なメンツが多いうちのクラスだから高杉も興味がでてきたのだろう。

「はい、どうぞ」

クラス写真を机の上に置く。その写真は、まあよくある感じので、
担任が真ん中に立ち、あとは背の低い奴は前で高い奴は、後ろといったもの。

「これがあの言ってたゴリラか」

そう言って細い指で近藤を指す。

「そう」

俺は答える。

「じゃあ、こいつがお妙だな」

高杉の指が写真をなぞりながら動きお妙の所で止まった。

「正解、よく分かったな」

まあな、と高杉は言った。
そしてまた高杉の指が動く。

「こいつが新八」
「正解」
「こいつが山崎」
「正解」
「こいつが神楽」
「正解」

高杉は誰が誰なのかもう知っているように迷いなく指を指しては名前をあてた。

「学校、来る気にでもなったか?」

俺がそう言うと、高杉は嫌な顔をした。

「ぶっさいく」
「お前だけには言われたくねぇ」
「ひどっ。先生はこれでもイケテる方よ。ほらしょうゆ顔で」
「まだ行きたいとはそんなに感じねぇかなー」

高杉はたるそうに言った。
あぁ、そう。と俺は言う。





高杉はまた人当てを始めた。
俺は適当に相槌を打つ。

「こいつが長谷川」
「はい、正解」
「こいつが沖田」
「またまた正解」
「こいつが・・・」

指が止まった。
高杉はその指を差した奴の顔をじっと見ている。
そして顔をあげ、俺の顔を見た。



「多串君か」



やけに真顔で高杉は言った。

「はい、正解」



俺は何も変わらない口調でそう答える。
高杉はふ〜ん、と言いながらまだ多串君を見ていた。
なんで彼の名前を言う時に俺の顔見たのかは知らないし、理解する気もなかった。

「男のくせに綺麗な顔してんのな」

高杉は写真を見ながら薄く笑った。
その時の高杉の目はなんとも優しく、こんな顔もできるんだ
と俺はぼんやり思いながらソファにもたれる。



「(今のお前の顔には負けるだろ)」



そう思った。


「高杉、」


天井を見上げて俺は呼ぶ。



「なに?」




「学校、来る気にでもなったか」




高杉の視線を感じた。

「・・・それ、さっきも聞いてたぞ」

少し笑いを含む声だった。


「あれ、そうだったけか」


高杉がとぼけたから俺もとぼけた。
高杉が答えないから俺も聞くのをやめた。

高杉はまた指を動かす。細くて白い指だった。
弱くてすぐに折れそうだった。



「こいつが、」


「こいつが、担任」




高杉はゆっくり言った。
写真の俺の顔の上に指を置いて、ソファに座ってる俺を見た。

「正解。 俺がこのクラスの担任でお前は生徒だ」




なあ、高杉。と言って俺はソファにもたれていた体を起こす。



「学校、来る日いつにする?」



高杉は目を丸くした。
しばらく黙ったままで、でも気まずくなかった。




「俺、制服どっかいったかも」

目を丸くひらいたまま高杉は言った。


「明日、買いに行けばいいよ」

俺は笑ってそう言った。



























飛び立つ準備はととのった

















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