「全部、全部、あなたのせい」を読んでからどうぞ。











「あなたのせいですよ」



山崎はそう言って強く俺を抱きしめた。急な事にかなり困惑したがうまく隠した。
手がきゅうぅ、と熱くなるのを感じた。

時間が経っていくにつれて、だんだん頭が冷えていった。
熱が上がっていくと自分で思っていた手は、どんどん冷えていった。



「(行くな、行くな)」



腹の中でそう唱えたが手はすでにぬるく、熱かった固まりは既にどこかへ去ってしまった。
ああ、もういやだ。本当にいやだ。
逃げていく温度が自分がとんでもない馬鹿だと思わせた。


「あなたのせいです」

「こんなに苦しいのも嬉しいとも全部あなたで決まってしまうんですから」


理不尽だと思った。しかし、それでいて羨ましい。
俺にはそんなふうに話せることはない。
好きになってよかったと思った事なんて一度も、ない。

好きにならなければよかった。

いつもそう思っている。
思ってるくせにこの手は何だ。
残った微かな温度だけでもこのまま止まってくれたらいい。
そしたら俺は山崎の背中に手を回してやる。



『でも現実はそうじゃないだろう?』



誰かが言った。
少し前か、あるいはかなり前の事かもしれない。



『 将来僕は宇宙飛行士になりたい、って今お前が言うのと、

 俺がそう言うのと聞いてた奴らはどっちの方が可能性秘めてると思う?

 当然お前だろ?お前の方が若いし、将来がまだ長い。時間も俺よりはるかにある。

 そこで俺がなるって言った所で周りはどう反応すると思う?

 馬鹿な事はやめろ、って言うだろーなぁ、現実見ろって、さ 』




『 口だけならなんだって言える。今から努力すればできる可能性がありますよ。

 でも現実は違うだろどんだけ頑張ってもできねぇ事ってあるんだよなぁ。

 スポーツなんかでよくあるだろ、どんだけ努力しても才能のある奴とない奴の差はあまりにも大きかったりするじゃん。

 どんだけ、こうなりたいって思っても現実はそうなってくれない事ってあるんだよなぁ、 』



銀八の独り言だった。
そう言った銀八は明らかに大人だった。
大人独特の考え方でまだ俺達には早かった。




俺は自分を呪った。微かにしか残ってない熱を呪った。
俺のせいだと言う山崎は呪えなかった。山崎の気持ちが痛い程分かった。
いや、分かったつもり。人がどう思っているかなんて誰も分からない。



「(似てる)」



山崎の顔なんて見えないけれど、きっとあいつを見ている俺に似てる。
そう思う事自体が彼にとってどれだけ酷い事か、俺は知っていた。
でも今の山崎は自分とそっくりだった。だから山崎の気持ちが分かっていると自分で決めつけた。
今、背中に手をかけるというのは同情だ。山崎はそんな事望んで欲しくてこんな事してるわけじゃない。
だから俺は何も言わなかった。黙ったまま何もせずただ突っ立って、山崎の言葉を受け止めた。


手はもう冷たくなっていた。




ふと視線を下に向けると山崎の持っていた炭酸のジュースがペットボトルから溢れている。
しゅわしゅわと細かい音をたてながらすぐに小さい泡達は消えて、
俺が飲めないといった炭酸はなくなり、原形であるなんだか味気ない透明な液体だけが残った。


それでも俺は飲めないと思った。
まだ知らないものへの不安からじゃない何かが引っ張るのだ。


あの時、独り言を言ったあいつの諦めたような嘆いているような狭間の力ない笑顔が。



























微熱と微炭酸















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