突然、私の机の前に話したこともない、他のクラスの女子が来た。

その子は、「昼休みちょっと来て」とだけ言って、さっさっと帰ってしまった。
用事がある貴女の方が来なさいよ、と内心で舌打ちする。
用事があるなら今言えばいいのに、なんで私がわざわざ、と思った。







指定された場所は図書館だった。人はほとんどいない。
私を呼んだ子は、私を前にしてやや緊張気味に言った。




「あの・・・私、近藤さんのことが好きなんです」



私は、目を丸くして、あら・・・そうなの、と言った。
なんでそんな告白を私にするのか分からずに黙っていると、彼女は勝手に話を続けた。
話はなんともくだらなかった。・・・まあ私にとってだけれど。


近藤さんが好きで、近藤さんが私に気がある事も知っていて、それを私が迷惑がっているのも分かっている。
だから、私の友達として近藤さんに自分のことを紹介して欲しい。
この子、あなたに気があるみたいなの、すごくいい子だし。だから私の事は諦めて。



つまりはこういう事。


「そんな事しなくても、告白すればいいじゃない」
「そんな!絶対フラれるじゃん!」

彼女は私を縋るような目で見てきた。



「悪いけど、それは断るわ」

そう言うと、彼女の顔も見ずに座っていた椅子から立ってドアに向かう。
すると、彼女は後ろから泣きそうな声で弱々しく言った。


「あなたひょっとして、近藤さんのこと好きなんですか?」


私はびっくりして思わず振り返ってしまった。
なに言ってるの、貴女。そう口に出してしまいそうだった。

「好きじゃないですよ」

持ち前の笑顔でそう言うと、自分の勘違いを恥じたのか、下を向いて顔を赤くした。
早くここから出ようと、ドアに手をかける。少し気になって、最後にちらりと見ると、


必死に声がでないように、声を殺して泣いていた。

肩をすぼめて泣いている姿は愛らしいくて、可愛いかった。








放課後、廊下を通るとあの子がいた。数人の女子に囲まれていて、その中の一人が私に気付いた。
横を通りすぎると彼女たち全員が私をじろりと見た。まるでわたしが悪い者みたいだ。

冗談じゃない、と思う。



「(わたしだってこんな状況になって泣きたいわよ)」



そう思ってるのに泣けないのだから自分が嫌になる。
昔は大人達に、妙ちゃんは強い子だなー、なんて言われていた。でも今、そんな事を言う人達もいない。
強い子だなー、なんて言われないし、なる理由もなかった。


でも泣くことはない。


それでも心の中は、暗い。


でも、平気な顔して歩けるんだもの。





「・・・いやな性格」
「あ、お妙さん!お妙さんじゃないですか!」

近藤さんが私を遠くで見つけるなり、走ってこちらに来た。
今、もっとも会いたくない人。


「あら、近藤さん」

持ち前の笑顔で答える。

「お妙さん!帰り一緒にどうですか!!なんか奢りますよ!」

そう言う近藤さんの顔は楽しそうにはしゃいでる子供のようだった。

今、私は泣きたい気持ちになっていて、でも泣く事なんてできなくて、近藤さんが来たから持ち前の笑顔で対応して、
ああ、やっぱり私、どれだけ泣きたくなったって平気で笑えるんだとか実感しているというのに、
見たくもない人はすごく楽しそうだった。


なんだか無性に腹が立つ。



「どこにします?やっぱマクドナルドとかですかね? あ!サーティワンとっ」

楽しそうに話す近藤さんに蹴りをいれる。近藤さんは、きれいに回転して飛ばされた。
私に蹴られた近藤さんは、うぅ・・・とうなっていた。
私は、さすがに悪い事をしたと思い、近藤さんの所に向かう。

「近藤さん。ごめんなさい。なんかあまりにもあなたの顔が腹立だしくて」

近藤さんが起き上がったので顔を見ると、鼻血が出ていた。
私は、本当にごめんなさい、と再び謝る。一般常識では最低を通り越す事だ。



「いやー、お妙さんが元気になってくれてよかったですよ!」


鼻血をたらしながら笑う顔は、ゴリラにそっくりで、


でもわたしの持ち前の笑顔よりもすごく綺麗だった。




「いやね、俺、分かるんですよ。お妙さんのこの蹴りの感じとかで、いつもの怒った時のお妙さんだなぁ〜って」
「私があなたにそうする時はいつも同じ気持ちよ。」

そう言って、私は近藤さんのそばに立つ。

「なんで、元気がなかったって気付いたんですか?」

そう聞くと、近藤さんはにかっと笑って、





「顔を見ればわかります」



と言った。


その顔にはまだ鼻血がついていて、相変わらずゴリラにそっくりな顔だった。


でもわたしの持ち前の笑顔より、やっぱり綺麗だった。














悲しいのは、
    貴方のせいだったの
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