「私、お嫁に行くみたいです。会ったことのない人の所へ」
何の突拍子もなく言われて土方は少し驚いた。
「私の婿になる方の写真を見ました」
とても優しそうな方でした、と少女は言った。
少女は微笑みながら、そう土方に話した。
土方は、それは素晴らしい事ですね、と言った。
少女は目を少し伏せた。
「それは、素晴らしい事でしょうか?」
少女は土方を見て問う。
黒真珠のような目には、不安と期待が渦を巻いていた。

「素晴らしい事ですよ」

土方はもう一度そう言うと、少し開いた襖の間から見える庭の桜の木を見た。
美しいですね、と言った。
返事はなかった。少女の目からは渦が消えた。
土方は庭の縁側に腰かける。

「ひどい人」

少女はぽつりと呟いた。
土方は振り向かない。
少女は泣いてはいなかった。
少女は歳は若かったがこの土方の答えに納得できない程子供ではなかった。
「ひどい人」
土方の頭の中にその言葉は響いた。
幸せになれますよ、
土方はそう言った。
桜はもうほとんど散ってしまったがそれでも美しかった。それでもそう思うのはこの立派な庭にあるからだろう。
ここにあるからこそ美しいのだ。
土方は桜を見つづける。振り返えらない少女の白い手を掴みはしない。
少女は土方の後姿を見てついに我慢できなって泣き出した。
土方は振り向かない。

















遠くが見える
















inserted by FC2 system