今日、浪士を四人殺しました。

その中の一人に、死を目前にした男が、さち、と小さく震えた声で名を呼んだんです。
俺はそのさちとかいう奴がそいつにとって何かは知らないですぜ?
そいつの餓鬼かもしれねぇし、嫁さんかもしれねぇ、ただの友人かもしれねぇ、ただその男が飼ってる小汚ねぇ犬かもしれねぇ。
『さち』が人間だろうが、動物だろうが、俺にはどうでもいい事だったんですよ、土方さん。
でも、なんでかその男を斬った後、無性に自分が鬼に思えましてね、
周りの民衆は、気の毒そうに死んで固まった男を見て、俺を嫌そうに、怯えた目で見てましたよ。 やってる事はこっちが正しいのに、はたから見れば俺は残酷な殺人者になってました。
しばらく何もできませんでした。
こんなの慣れっこのはずなのに動かなかったんですよ、手が、刀が。
そこで俺は気付きやした。俺をこんな風にするのは、『さち』だって。
何者なのか、俺はまったく知らないさち、でも、まあ分かるのは、『さち』はこれから泣く事になるということですね。 俺はそう思うと、頭の中に『さち』が泣くのが浮かんできちまったんでさぁ、やっぱ女が泣いてる所は見れたもんじゃないですね。
酷い顔でしたよ、『さち』。
刀を手に持ってました。顔、隠そうともせずにおいおい泣いてました。刀持って。
男の仇討ちにでも行くんですかねぇ、




そう言って、頭に巻いてある包帯を手でそっと触れた。




そんで、そんな事考えてたらあと一人の浪士の事、完璧に忘れてまして。
そういやぁ、山崎がなんか言ってましたね、遠くから。
まあ、それで後ろから斬られちまったんでさぁ、
で、倒れてからまた見たんです。



『さち』を。


でもよく見たら違いました。
泣きながら刀持って、暴れてる『さち』の顔は俺だったんですよ、土方さん。
俺のイメージした『さち』はどこにもいなくて、ただおいおい泣きながら刀を握る俺がいたんです。




総悟は少し卑屈に笑いながら俺の目を見ないで言った。


俺は、なにを言ってやればいいのかよく分からなかったので、
近藤さんならこんな時どうするかを必死で考えた。


俺は総悟の白い腕を強くこちらにひいた。
総悟はバランスをくずし、捕まるように俺にしがみついた。






近藤さんならどうするだろう。





そう考えた自分をひどく情けないと思った。






















ごめんなさい。
















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