おんしは素直じゃないのー。
男の口癖だった。
何かしら反論したり断りをいれると男はいつもそう言った。
素直になれ素直に、
男はいつもそう言って俺を見た。
俺が言い返す言葉も、だいたい同じだ。
お前相手に見栄張ってどーすんの。
要は素直なってるよと伝わって欲しかったわけだ。
うまい具合に。
「宇宙に行くぜよ」
その一言。
また素っ頓狂な話をするもんだと呆れたが、この男なら絶対に行くんじゃないかと思った。
たとえ宇宙に行かなくても、この男はここから離れるだろうとも思った。
男は宇宙に酔わされている。
酔った男は何をしでかすか分からない。
だから本当に行くと思った。
ある夜、
「一緒にこんか?」
男は珍しく真面目な顔をしてそう言った。
「・・・いや、やめとくわ」
そう言うと男はいつもの口癖を言わなかった。
そうか、
と一言。それでこの話は終わりになった。
宇宙に行くと俺に伝えた日以来、その口癖だった言葉は口癖じゃなくなった。
お前は頭がいいから助かるわ、
そう言うと男は笑ってそうじゃろう?と陽気に言った。
男の隣に腰をおろす。
泣きたいときに泣けばいいき、
男は陽気に言った。
俺は男の肩に寄りかかる。
「お前相手に見栄張ってどーすんの」
要は無理してないって伝わって欲しかったわけだ。
うまい具合に。
夢に酔った男
( い つ か は こ う な る っ て わ か っ て た )