私が彼といれる時間はほんの数十分だ。
そして彼が私の隣にいる時、彼にとって私といる事が目的ではない。
部屋の奥で難しいお話をしている人を待っているらしい。
たぶん彼が私に会いにくるために隣に立つ事なんてこの先ないだろう。

はぁ、と軽いため息をつくと、彼は
どうかしましたか?
と声をかけてきた。

柄でもない事を、と思った。
優しくしてくれるのは私がそよ姫様だからで、本当の彼はきっと女性には冷たい方だろうと思う。
そう考えてしまい、ちぇっと内心で不貞腐れる。
性別は同じ女なのに、自分は彼の周りの白粉を塗った綺麗な女の人達と対等に扱ってもらえる事も一生ない。
例え、大人っぽくなったって対等に扱ってもらえない。

庭の桜の木の前でしゃがんで散った花びらを手にとり眺めた。
彼は私の後ろに立っていて、まだなにやら難しいお話をしている部屋の方をじっと見ているだろうか。

「疲れましたか?」
と背後から彼の声がしたので、
「ええ、少し」
とお上品に答える。

「土方さんは誰を待っているんですか?」
「うちの上司ですよ」
「・・・早く来て欲しいですか?」

意地悪なことを初めて口にした。
彼の顔はきっと困った顔をしている。
だったらそれでいい。
別に無理矢理作った否定の言葉を聞きたかった訳じゃない。

「心ここにあらずって感じでしたよ」

にこりと優しく笑って言うと、彼はほんの少し照れ、すいませんと小さく謝った。

なんだか謝る容姿が幼く見えてひょっとして今、この瞬間だけは彼と対等なんじゃないかと思った。
いつもより少し幼く見える彼は、なんだか不思議で愛らしかった。
彼にこんな顔させる女性もそうそういないんじゃないかと私は考え、
自分は彼の周りにいる白粉をぬった綺麗な女の人達よりも、少し特別な何かを得たような感覚に酔わされた。





















束の間の特別に酔う

( 今 、こ の 瞬 間 だ け だ と わ か っ て い て も )
















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