放課後の教室。中には土方と俺の二人だけ。
土方は日誌を机の上に広げ、
俺は特になにをするでもなく教師用の椅子に座って書き終わるのを待っている。

「なんでそこにいるんだよ」

俺がいる事に不満があるのか、土方が迷惑そうに言った。

「戸締まりしなきゃいけないから」

ボールペンをくるくると回しながらそう答える。

「そんなん俺が最後にやってく」

そんなに帰ってほしいのかよ、と呆れた。

「お前ね。教師が生徒一人教室に残してさっさっと帰れるわけないだろ?」
「・・・・・。」

溜息まじりにそう言うと土方は黙った。
やっと俺がこの空間にいる事を認めたんだろうか。

「土方はさ、なんでそんなに俺がここにいる事を嫌がるわけ?」
「なんとなく」

即答だった。
いや、なんとなくって土方君。
そんな顔色変えずにばっさり言われたら流石にちょっと傷つくわー。
お前のなんとなくで否定されちゃうの、俺の存在って。

「ほんっとにお前は可愛いげがねーな」
「それ、男子生徒に言う台詞か?」
「そうですよ。男だろうと女だろうと可愛い所はあるもんだろ?」
「可愛くなくて悪かったな」

土方のイライラが混じった言葉でこの話題強制終了。
ホント、こいつ沸点低い。

土方は日誌を書き始める。
俺は相変わらず暇なので外の景色を椅子から眺める。

夕焼け空。

窓があいたままだから聞こえる部活動の声。

ぬるい風。

うす暗い教室。

そこに土方。


「(特になんだってわけでもねぇけど、)」



これといった会話もなければ、

何かドラマチックな事故もない。

ごくごく普通なこの状況。



「(この空気好きなんだよなぁ)」



何にもしなくて楽だからそう思ってんのか。

いや、でも何にもしてないのは昔から同じだし。



「(一人でここにいてもこんな感じしねぇんだけどなぁ)」



寧ろ一人だと逆に孤独を認識させられる。



「(俺は今、リラックスしてるんだよな、)」



ちらっと土方の様子を見る。
すると土方もちょうどこちらを見ようとしていたらしく、目があった。

「なに、」
「別に。日誌進んでるかなって、」
「今、書いてる」
「あ、そう」



「・・・おい」
「なに?」
「こっち見んな」
「なんで?」
「気持ち悪いから」
「うわー、先生すごい傷ついた。」
「事実だろ」
「あーもーガラスのハートがブロークン」
「勝手に壊れろ」

土方があまりにも俺の不幸を嬉しそうに笑うもんだから。



「あー・・・和むわ」



思わず口に出てしまった。

「何が」
「お前の笑顔」
「キモイ、うざい、死んでくれ」

まさかの棒読み。
なんとも可愛いリアクション。

「可愛いげあるじゃん」

そう言ってやると土方は日誌を俺に投げ付けた。

「書き終わったんで」
「ははっ嘘嘘、前言撤回」

土方が投げ付けてきた日誌を見る。
土方の前は沖田か、なにやら沖田のぺージは訳のわからん文字が適当に書いてある。

「土方はきっちりしてるよな」
「は?」

土方は筆記用具をしまう手を止めて不審そうにこちらを見る。

「何?その顔」
「いや、なんで急に褒めるんだよ、気持ち悪い」
「だってこの日誌とか、真面目にしっかり書いてて偉いねって思ってさ」

俺がそう言うと、土方は当然だろ、そんくらい、と言った。

「じゃあ、しっかり者に。はい、これどうぞ」

ポケットからミルキーをだして土方に渡す。

「日が沈むの早えーから早く帰れよ」

そう言って俺は土方の横を通りすぎ教室の戸締まりをする。

「・・・っかつく」

土方がぼそりと呟いた。

「なに?」

俺が聞き返すと土方は俺の方を向いた。

「むかつくって言ったんだよ」
「なんでまた?」
「ガキ扱いすんな」

俺は土方に近づいて顔をじっとみる。
子供扱いされて不満げな目から、戸惑っている目になった。
ほんの少しだけ顔を紅潮させて。

こんな顔初めて見た。

なんとも幼い顔。

「だってお前、まだガキじゃん」

ぼそりと呟くと土方は最初の不満げな目に戻り、鞄をひっつかんでその鞄で俺の頭を叩き、
嫌味ったらしく敬語で挨拶をしてドアを閉めた。

「ってぇーな、あの野郎」

頭をさすりながら彼の出ていったドアを見る。
さっきの少し紅潮させた顔が頭に浮かんだ。

「可愛いげあるじゃん」

俺は一人呟いて煙草をくわえた。

「また明日ね、土方君」


そこで俺は目が覚めた。





「っていう夢を見たんだ、土方君」
「かなりどうでもいいな」
「可愛いかったなー」
「キモ。っか無駄に長ぇよ」
「正夢になるって信じてる」
「シチュエーションは同じだけどな」
「だろ?こんな奇跡ってない!」
「じゃ、さようなら」

がたがたと土方は席を立つ。

「ちょっとちょっと、それはねぇだろ。別に今もお前は可愛いって」

だからそんなすぐに帰らないでください。
そう俺が言うと仕方ねぇなぁ、と偉そうに言って再び座った。
夢の中は俺が主導権を握っていたが、現実はそう上手くいかないらしい。


まあ、リアルの俺達の関係はこんな感じです。




















日常を愛す



( こ の 空 間 だ っ て 愛 し て る )
















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