「砂漠につれってヨ」
どうせ死ぬならそこがいい、と女は言った。
なんでそんな所で死にたいんだよ、と俺は聞いた。
「広いから」
女はそれだけ言って、俺も了解した。
明日の夜、砂漠へ行こう。
午後10時、俺は女を公園で待った。
女が来た。てっきりこないと思っていたから驚いた。
「お前、本当に来たアルか」
「あんたが約束したんでしょ」
俺が呆れて言うと、女は絶対来ないと思ってた、と言った。
なんだ、同じではないか。
「なんで?」
「大事なものがあるからヨ」
女はそう言うと砂場へ歩いていく。
「大事なものほど重くて邪魔になるんですよ」
俺はそう言って女の前にしゃがみ砂を掴む。
ひんやりして柔らかかった。
「だから来たアルか」
「まあ、砂漠に行くつもりはなかったですけどね」
「私もヨ。言ってみただけ」
でも、死ぬなら砂漠がいいのは本当。
女はそう言って砂で山を造り始める。
「あんな乾いた所で死ぬのは御免ですよ、」
「でも私はそこがいいネ」
潤おいがある所で死ぬのは嫌だ。
だってそこは生きる場所だもん。
でも乾いた所には花も草めなくて人もいない。
あそこが一番いい死に場所だもん。
女はそこまで言うと山に右手をぶす、と突っ込んだ。
そんな死に場所、俺は職業柄無理だな。
砂の山に埋もれていた女の白い手が動いて、山がぐにぐにとバランスを崩し始める。
知ってるヨ、そんなこと。
私もやっぱり最後が一人になるのは寂しい。
女はずぼ、と手を抜くと同時に山はぐしゃりと潰れた。
山だった残骸は平らになって、すぐに寝ていた他の砂と混ざりあって同化した。
それと同時に砂漠で消えたい、と言った女の表情もいつのまにか夜の闇に同化して消えた。
もう今じゃあ、
どれが山の一部だった砂なのか、
どちらが女の本心なのか
俺にはもう、分からない。
分からないがあの時の女の表情から嘘ではないことは確かで、
ただそれが実現できるはずもないこと前提の話ってこと。
所詮、お前と二人で消えていくことができるなんて夢物語ってわけだ。
夜の公園
( た だ 、 言 っ て み た か っ た だ け )