沖田の剣には力強さがない。
剣の重さなどそうたいして変わりがないのだが、沖田は軽々と人の肉を裂いては刃を赤黒くそめていた。
まるで沖田の刀だけ特別に軽いような、他の隊士たちとは全くの別物のようであった。
そんな事を思わせる沖田はやはり剣の天才だと隊士達からは言われている。
そうでなければあんなにふわり、ふわりと刀が舞うわけがないのだと。
それを聞いた土方は可笑しくて笑った。
沖田の手を握ってみるといい、きっと骨が潰れる。
と土方は言った。

土方は沖田を才があるものだと思っていなかった。ただ剣しかない馬鹿だと土方は思っている。
敵が残り何人だ、どんな奴だ、と沖田は気にしない。斬れといわれりゃあ斬る。
相手に興味はない。ようはどれだけの奴を自分は斬れたのか。沖田の観点は常にそこである。
ついて行くと誓った日から今日に至るまで沖田はずっと剣しか見ない。いや、見えない。
与えられる地位や酒の席での女達。
残念なことにそれらは沖田にとって、何の為にもからなかった。

あいつは本当に昔から成長しない。

土方はそう隊士に言った。彼は昔から剣が全てだ。
刀がこの世からなくなるようなことがあればあいつにはなにもないだろうよ、この時代に生まれてよかったな。
土方は小馬鹿にしたように言った。

自分も沖田と同じなのだ。
おかしなことだが自分達のようなうつけがこうして光を浴びれるのも、
まだ二十にも満たない少年が刀をふるい、刃が赤黒く染まるこの時代のお陰なのだ。

「まったく皮肉な」

渇いた笑いでそう土方は言った。
そう。今の自分達を造ったのはこの汚い世の中なのだ。


















そうだ、
   それが世の中だ。




( こ こ で し か 生 き ら れ な い )
















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