夢の中で、綺麗な女の人がにこりと笑っていた。
その女の人は、赤い綺麗な唇が印象的だった。
「あなたは誰?」と聞くと「無理よ、」まるで答えにならない、とんちんかんな返事だった。
この人はまるで私の声など聞こえないようだった。


「無理なのよ、」


また繰り返した。「何が無理なんですか?」答えは期待してなかった。
私なんていてもいないようなものなんだろう。


「あなたじゃ無理、」


女の顔を見なかったら腹が立ってた。
でも微笑んで言う女の顔が綺麗で、茶目っ気があるようで綺麗な人はずるいな、と思った。


「あなただって綺麗よ。私によく似てる」


そんなはずない、と私は思う。あなたと似てる所なんて髪の色だけだ。


「でもダメなのね。」


先程から無理とかダメとか何でそんなことばかり言うのだろう。


「私のなにがダメなんでしょうか?」

「ううん。あなたが駄目なんじゃなくてあの人が駄目なの」


私は驚いて耳を塞いだ。
塞いでいても『あの人』をしゃべる。「もういいよ、」私は呟いた。聞こえているとも思えない。
やはり聞こえてなかった。女の人は口をまだ動かしてる。
強く塞いでいるのになんだか女の人の声がするすると入りこんできた。
「もうやめてよ。」泣きそうな声になってしまった。


「あの人、寂しい人だもんね」




目が覚めた。
涙が出ていた。
永倉が自分を呼ぶ声が聞こえた。
ああ、朝なんだ、と思った。
部屋を出た。廊下の向こうから土方さんと隊士の仕事の声がする。
隊士が自分に丁寧に挨拶をする。土方さんは「おせーよ、阿保」だけ。
なんだか悲しくて涙が出た。土方さんがぎょっとした顔をした。
「おいおい、お前どうしたんだよ。キモチワリーな」
その言葉にむかついたから腕で涙をぐいとぬぐった。

この男のために流した涙だと思うと後悔した。
返して欲しいと思った。

流した涙を一滴も残さずに、私ではなくあの人に。





















少女達のなみだ



( 「 無 理 な の よ 、 」 ま だ 聞 こ え る )
















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