「ぎんときくん いますかー」



玄関のチャイムよりでかい声で俺の名を呼ぶ声。
無駄に通るこいつの声が怨めしい。


「いませーん」
「銀さん!駄目でしょーが!あ、桂さんどうぞー!あいてまーす」


新八は普段気がきくメガネだかたまにきき過ぎて困る。


「そんなあからさまに嫌な顔しちゃダメですよ。友達じゃないんですか?」


子供を叱りつけるような顔をして新八は言う。
トモダチっつーか・・・。いや、トモダチにはしたくないタイプだよな、あいつ。
あ、幼なじみか。


「新八、あれはトモダチじゃなくて、」
「相変わらずな頭だな、銀時」
「・・・・・・」


頭関係ねーだろという言葉は飲んだ。


「結局あがるのかよ。」
「まあ、そういうな。土産があるぞ」


そういって机におかれていた紙袋から箱を取り出しこちらに差し出す。


「羊羹?」
「あぁ。ところで銀時」
「新八ー、ヅラだけじゃなくて俺にも茶ぁくれー」


ヅラの眉がぴくりとあがる。おもしろくない、といった顔をしている。


「くどいね、お前も。また勧誘?」
「俺は諦めていないからな」
「土産代もったいねーとか思わねぇの?俺は嬉しいけど。」


新八が横から来て、コトン、と緑茶を置いた。


「じゃあ、僕羊羹切ってきます」
「おぉ、」


やっぱり気がきくメガネだ。
将来お前は地味に出世する、と俺は思う。


「銀時、今からでも間に合うんだ」
「なにがだよ、」


ため息まじりに返した言葉。
もはや間に合うことなんて何一つない。


「天人のことも、高杉のこともだ」


こいつを見てるとつくづく理解できないと思う。今に始まったことじゃないが。
またあの旧友の名を出すとは。


「ー・・・昔から、高杉とお前の意見が合ったことなんて一度もねぇぞ」


なんだかほんの少しだけ過去を語るのは憚られる気がした。
だから少し後悔。


「そんなのはまだ子供のときだろう?今は、違う」


今は違う。
そう断言するヅラの顔は渋い。
確信なんてねぇくせに、と思ったがそれも飲み込んだ。
俺だって言っていいことと、悪いことの区別はつく。


「(言ったらどんな顔すっかな)」


少しS心が揺さぶれたが、よく考えれば相手はヅラだと思い出して、冷めた。
俺は高杉と違って男の良さなんて全くわからない。

ヅラはまだ難しい話をしている。
俺は欠伸をして、それから伸びをする。ヅラの話は聞いてなくても肩が凝る。


「真面目に聞く位したらどうだ」


じろりと睨まれる。なんで俺が怒られなきゃならんのか。
やれやれ、と俺は肩をすくめた。


「あいつに関してはくどいね、お前も」


こいつを毎度毎度、家に入れる俺もか?


「銀時、高杉の件は・・・・・・もう残るのはお前しかいないんだ」
「・・・・・・俺がどう思ったってあいつは何もかわんねぇよ?」

お前が思っても変わらないんだから、とは言わない。それも飲み込む。
だってあまりに憐れだ。いらぬ同情かもしれないが。


「いいんだ。それでも」


そう言ってヅラは少し穏やかな口調で話す。筋金入りの馬鹿だ。
帰ってくるはずないのに待ってるなんて、俺には真似できない。生娘じゃあるまいし。




それでも、こいつは待っている。




お前がせめてそんな顔しなけりゃ、俺だって案外簡単に諦めてたかもな。





こいつの話で、かつての戦場での話や今の天人の武器の密輸なんて話は好きじゃない。
毎度毎度来るのも、正直うぜーし、うっとおしい。小言多いし。
まして、まだ攘夷がどうたらこうたらと、そういう話したりなんてのは
俺の耳を右から左、そのまま抜けていく。



でも、かつての仲間を信じて待ってるお前は嫌いじゃない。






















きらいじゃない



( き ら い に な れ る わ け が な い )
















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