あさましい一体感      土沖



自分は、もうすぐ死ぬんじゃないかと思う。

たいした根拠もないくせにただ思う。
きっともっと寒くなって雪が積もって近藤さんが笑顔で雪かきだ!って言う頃に俺は死ぬ。
どかされた雪が、雪の固まりの上に捨てられるように、俺もきっと捨てられる。
どかされた雪が、跡を残して溶けていくように、俺も土方に何らかの跡を残して溶けたい。
土方を一生苦しめるような、死ぬまで離れられない苦痛の言葉を吐いてやってから死のう。
いつだってその言葉を持ってる。たぶん、俺しか持ってない。
土方を傷つける言葉を。心をえぐる言葉を。


俺だけが知っているんだ。そう俺だけが。








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      銀+桂+高杉



こいつの声が好きだった。

周りがどれだけうるさくても、桂の声だけすぐ耳が捕らえた。
凜とした清潔感のある声。色をつけるならば白。
声は俺に命令する。俺は頭が悪いから例え偉そうな声でも従わねばならない。
従って刃を握るとほらもう勝ち戦だ。

それでも死んだ仲間はいる。死んだ奴らを置いて俺達は進まなきゃいけない。
仲間を弔った後、ぼぉと空を眺めているとあの声が遠くに聞こえた。



「銀時を先頭に出すのはもうやめないか、高杉」

「なに言ってやがる、あいつが先頭きってるから他が成り立つんだ」

「銀時は、きっともう人を斬りたくないんだ」



それが溝の始まりか、あるいはより深くなったきっかけかもしれない。
その言葉を境に少し二人は口論して、高杉が乱暴に部屋を出てその話が終わった。
こんな風になった事が幼少の時にもあった。
俺と桂が残されて高杉は独りでどこかに出て行く、そんな様子が。

桂はやりきれない顔をしているに違いない。
そうすると俺は刀を握るしかない。
迷いなく、まっすぐに刀を奮わなければならないと痛い程思った。








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思春期     銀神



なんて馬鹿なのだろうと思った。
あくまでも自分自身が、だ。
彼を困らせる言葉をたくさん私は持っていた。
この年齢に、年ごろの娘という立場、他にも未来があるということなど。
揃っているのにも関わらず彼を困らせれない。
もう言ってしまおうか、となる時があるけれど、なるだけで少し怖かった。

言ったら終わりになる。

諦めなくちゃいけなくなる。もっとイイオトコを探せ、と言われなくちゃいけなくなる。
私はそれが嫌で何も言えない。



たぶん、ずっと、永遠に。








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色彩の洪水     銀+桂



「どこに行ったかな」

「いたじゃねぇかあの船に」

「違う」


桂はぽつりと呟いた。


「銀時、違うんだ。あれは高杉じゃない」


気でも狂ったか面倒臭い、と思って桂の顔を見るといつも通りの真面目な顔だった。


「高杉は、 」


続きを口にしない。今の高杉にかける言葉が思いつかなかったのか。
ましてや俺の前では言えないことなのか。(例えば可哀相だとか)
今ものすごく桂を殴りたい衝動にかられたが俺は堪えた。やられた傷がまだ痛むからだ。
だから優しくしなかった。



「囚われてんのはお前じゃねぇか、くだらねぇ」



突き放すように俺は言った。つないだ手を払いのけるように、その手を嫌悪するように。
すると桂は目を閉じて、また開けた。それから微笑していや まったくだ、と言った。



ああ、やっぱり殴っておけばよかった、と一人後悔した。




(紅桜後)








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覚醒     夜兎兄妹



大丈夫だよ。

昔、俺が妹の手をひいて歩いていた時の口癖だった。
妹は小いさいし、すぐ泣いて、俺はその泣き声が悲鳴みたいで大っ嫌いだった。
だからなぐさめる為に「大丈夫だよ」を使った。


だがある日いくらなだめても泣き止まなかった。
俺は苛立った。苛立ってそっと掴んでいた妹の手首を力いっぱい掴んだ。
白い皮膚が赤くなっていくのが見える。慌てて離して妹を見ると、なんとぴたりと泣き止んでいた。
俺は思わず 「なんだ、」と口に出した。
今まで泣き止ませる為に言ってきた言葉はいらなかったじゃないか!!

『大丈夫だよ、母さんは治る。父さんもすぐにお金を持って帰ってくるから、』

などと言うくだらない御託を並べるよりも簡単に妹は泣き止んだ。




それから俺は「大丈夫」を言うのをやめた。その言葉は大嫌いになった。
だから泣かれた時は妹の白い手首を乱暴に掴んで真っ赤になるまで離さない。
それから俺は真剣に話す。



「神楽、理解しなよ。母さんはもうきっと治らない。」

「父さんは逃げてる。だから帰ってこない。」

「自分のせいでこんなザマになった母さんを見たくないんだ。」

「怖いんだよ、きっと。怖くて、認めたくないんだ。」

「神楽、我慢しなよ。人間が死んで行くことは決まってるんだ。」

「ただあの女はその時間が短いだけ。でもあの女は充分人生を謳歌した。」

「あ、意味わからないか。つまりね、神楽が生まれてきて、あの女はお前を愛した。」

「お前も愛した。これでもう十分満たされたんだ」

「神楽がいたから、神楽が可愛いから、神楽が愛してあげたから、」

「だから、幸せな人生だったんだよ」



そんなことをくり返し言った。
泣き止んだ神楽は一言、


兄ちゃんは?



と言った。
その一言に、俺の胸が熱くなった。嫉妬、怒り、自惚れ、憎悪がどっと溢れた。


「兄ちゃん、て、痛いよ」


ほら、また神楽が泣く。ボロボロッと涙を零す。
俺はもうこんなことはごめんだと思った。
泣くことが涙を流すことだけだと決める馬鹿な大人にも。


「神楽、家に帰ろうか、」


手を離して笑ってやる。
そうしてこの笑顔が俺に寄生した。
神楽は うん。 と小さく返事をした。
いつもの見慣れた灰色の暗い家に戻る。


ただいつもと違うことは帰り道にはもう手は繋がなかったことだ。


















ただの愛情のひと欠片



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