私は昨日、「猿飛さんって早死にしそうよね」と本人に向っていった。彼女は口の端を少しあげて微笑んでいたが目がわらっていなかった。
カメレオンの寿命
冬の屋上は寒い。風は吹いているわけではないが空気がスッとしている。鼻がツンとなった。自分でも鼻があかくなっているのが分かる。
屋上なんて初めてきた。大体ここは不良のサボリ場所だ。そのせいかところどころ煙草の無残な吸殻が落ちている。
「(今日が晴れだったらよかったのに)」
私は急に少し悲しくなった。ここはガランとしていて、もちろん人はいない。
寂しい場所だ、
そう感じた。空は曇っている。
なんだかこの場所はなにか大事なものがなくなってしまったような感じがした。空虚でからっぽだった。
今は放課後。早く帰らないと閉じ込められる。そう思いつつも私は突っ立って空を見ていた。光がさす部分もなくどこをみても灰色一色だ。
「あら、お妙さんじゃない。」
空色の髪をした赤いフレームのメガネをかけている女がいた。
「あなたそんな格好してて寒くないの?」
彼女の格好は上半身裸でブラジャーだってつけていなかった。
かろうじて下はスカートをはいていたが裸足だ。
別に、今着るから。と彼女は言い、ったくちょっとは場所考えなさいよ。この童貞やろう。と舌打ちをした。
彼女の足元には長方形の古びた色をした紙が何枚かくちゃくちゃにしておいてあった。
「(こいつ、どこまで暇なのよ)」
彼女は私の視線に気づいたのか、その数枚の紙を両手でにぎり私に渡した。
「これぐらいあったら、先生をファミレスに誘ってパフェを奢れるわよ。」
彼女は自慢げに言い、まだ先生職員室にいるかしら、と言った。どうやら本気で誘うらしい。
私は内心であんたと一緒なら先生はおかしの家に誘われたっていかないわよ。と思ったが言わなかった。
「あんたやっぱり早死にするわ。」
私は言うつもりはなかったが今の彼女を見ていると考えよりも口の方が先に動いてしまった。
「ねぇ、先生が今の私の格好をみたらどうするかしら?」
私の意見をシカトして彼女は頭のなかで自分がメチャクチャにされる妄想をして悶えていた。
私、先生が行くっていうならどこにでも行くわよ。宇宙にも行くし、何も無い砂だらけの所にだっていくわ。なんでって?だって私がいるところに先生がいないなんて世界が終わったのと同然よ。私にとってね。終わりってことは死よ死。死んじゃうのよ!!
彼女は上半身裸で両腕を深呼吸するときみたいに広げてそう言った。
彼女ならやりかねないと思った。
あの天パの為ならどこにだってついていくし、あいつがこの世から消えたらこの女も即この世から消えるだろうと思った。
「ねぇお妙さん、どうして私が早死にすると思ったの?」
今更と思う質問に私は困った。
だってあの男はしぶとく生き延びるタイプだもの。
あの男が生き延びるならこの女だって生き延びるじゃない。
私は結局その質問には答えず、そんな格好してるとそのうち、本当の変態に見られるわよ。と言って校舎へともどるドアを開けた。
帰り道を歩きながら私は早くくたばればいいのに、と無意識に思った。
なんてくだらない。私があの女に対して「早死にする」と思ったのはただの私の願望だった。