『』は「生命は」からの引用






『命は、自分自身では完結できないようにできているらしい。』





「珍しいな」

銀時がふと高杉の腕に巻かれた白い包帯を見て問う。

「なにが?」
「その腕、」

銀時がそう言うと、高杉は、ああ、と思い出したようにいった。

「ちょっとしくってな。珍しくやっちまった」
「深いの?傷」
「結構バッサリいかれた。でも、動かねぇことはねぇ。表面だけだ。」

見るか?と高杉に問われ、銀時は素直にうん、と返事をした。
銀時が高杉の腕を取り、遅くもなく、速くもなく、丁寧に包帯を解いていった。
その所作が普段の彼らにはない時の過ぎ方で、
いつもうるさい銀時が静かにやるものだから高杉はなんだか不思議な気分だった。
包帯が全部外れ、高杉の腕が露になる。
まだ血がじんわりと滲んでいる。

「……思ってたよりも深いな」
「そうかよ」

どくどくと脈打っている。まだ血が止まっていない。
傷は手首の手前から肘まで達している。真っ直ぐな深い線がひどく生々しい。

「まだ痛ぇの?」

銀時は傷口を見ながら問う。

「まだ少しな。できたばっかりだぞ」
「戻ってきた時、すげぇ血だったもんな」
「まあな、……もういいだろ」

高杉が包帯を巻き直そうとすると銀時ががし、と腕を掴んだ。

「お前、」

銀時は無言で高杉の腕の傷口に唇があてる。
さすがの高杉も突然の行動に驚いた。

「…おい、」


ゆっくりと、銀時の舌が傷口をなぞった。ぞくりとした。嫌悪じゃない。快感に近い。
そして傷の中心部に舌が、あたりチリ、とした痛みに高杉は息をのむ。

「っ……!」

高杉が痛みの声をあげても銀時はやめない。

何度名前を呼んでも返事がないから、力ずくで引き離そうと高杉は試みようとしたが止めた。
銀時があまりに真剣だったから。

銀時は傷口でもない所も舐めていた。
高杉は始め首を傾げていたが、すぐに分かった。
戦から戻ってきた時の出血を思い出しているんだと思う。

高杉の左腕から銀時の舌の生々しい音がする。

その音を高杉は耳にとらえながら、高杉は目を閉じる。





『命は、自分自身だけでは完結にできないようにできているらしい』






銀時は改めて知った。
自分達がいつ命が消えることになるかわからないということ。
まだ、高杉に体温があること。





『花もめしべやおしべが揃ってるだけでは不十分で、虫や風が訪れてめしべやおしべが仲立ちをする』







「銀時、」

高杉の声に、銀時は、はぁと音にならない息をついて、そのまま頬に高杉の左腕をあてていた。






『命はその中に欠如を抱き、それを他者から満たしてもらうのだ』





「馬鹿じゃねぇの」
「うん」
「痛ぇっつってんのに」
「ごめん」




『世界はたぶん、他者の総和』





銀時は、体を起こした。

「情けなねー顔しやがって」
「ちょっと、考えたんだよ。いろいろ」

そうお互いに話すと、少しの沈黙が流れた。
そして、その後どちらからというわけではなく、彼らは口づけた。

彼らは、はっきりとした間柄ではなかった。
でもこうして、ほんのたまにだけお互いがお互いを求める時がある。
たまにお互いに執着したりする。
でもそれはずっとじゃない。




『ばらまかれている者同士、無関心でいられる者同士、
ときに、うとましく思うことさえも許されている間柄』






銀時は、高杉が何を思って、何を信じているのか今だわからない。
高杉は、銀時の思うことが今の自分の志とは違うことを知っている。
一体銀時が何を考えているのかわからない。それでも、それを聞こうとはしない。
ただ、お互いに、自分が相手の中の何かであるというのを信じて、彼らは、たまに体をつなげる。
そして、夜が深くなったころには2人で眠り、また朝がきたら別れるように戦に出て行くのだ。





『そのように、
世界がゆるやかに構成されているのは、なぜ?』



でもそれだけで、彼ら確かに満たされていた。






















悲しい幸福
















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