浪士を二人切った。

沖田は、路地裏で一人しゃがみ込むとふぅ、と一息ついた。
なんだかやけに疲れていた。
体がいつもより重く感じ、息が切れていた。
息を吸い込んだとたんに、はっ、と音にならないでつまる。
沖田は重い咳を何度も繰り返し、肩を激しく揺らした。
ただでさえだるい今に、この重い咳。
しばらく何もする気がおきず座っていた。

「よう、」

誰かが呼んだ。
人目につかないこの暗くてせまい路地裏で誰かが呼んだ。

「こんな真冬にお前、汗だくじゃねぇか」

声の主はからかうようにそう言って沖田を見下ろした。
沖田は見上げもしなかった。
ただ目を閉じて微笑すると男に向かって手をつきだす。
男は沖田の手首をがしりと掴むと自分の方へおもいきりひっぱり、沖田を力づくで立たせた。










ぱちりと目をあけると上に水があった。
正確にはコップに入った水。
沖田が布団から起き上がって受け取ろうとするとうまく逃げられた。
ふと上を見るとどこかで見た天井だった。

「(そうだ。二人で入った宿屋か。)」

何も気にせず入ったが確か、前に神楽と来たところだった。
沖田は銀時を見て言った。

「・・・水、くれないんですかぃ」
「あ、ちゃんと生きてる」

銀時はそう言うとはい、と言って水を渡した。
また痩せた?銀時が沖田の裸を見てそう言う。
ええ、少し。沖田はそう返した。
一口飲んだ水はまずかった。沖田が瞬時に嫌な顔をしたせいか、
銀時は、ちゃんと市販のやつだよ、と言った。

「俺ぁどうも天然水が嫌いでしてね、」
「水ぐらいきれいなもん飲んで体ん中浄化しとけよ、」
「失礼ですねぇ。俺が汚ぇみてぇな言い方だ」
「汚かねぇよ。表面は、な」

銀時は少し沖田から離れた壁にもたれ、胡座をかいて沖田の腹か肺あたりを見ながらそう言った。

「ヤっといて汚いたぁ失礼ですよ」

いい加減に服を着ようと立ち上がった。腰は案外大丈夫だ。
まだ覚えているほんの一時間前の自分の姿と、先日自分に抱かれた神楽の姿がフラッシュバックした。
沖田の頭の中に神楽が映った。


「旦那、」
「なんだよ」
「アンタんとこのチャイナとこの前、宿に泊まりました」

ズボンを履いて、ベルトをとめながらはっきりそう言った。

「そう。・・・どうだった?」

俺は黙ったままシャツを手にとる。


「アンタを想って泣いてましたよ、」


「銀ちゃんが一人になっちゃうからダメだって、言いながら泣いてました。」
「そう、」

銀時が呟く応答の声に沖田は顔をゆがませた。
なんだか目元が熱かった。

「それでも抱きましたけどね」

振り向いて銀時を見た。
銀時は、またそう、 と小さく言って立ち上がるとこちらに来た。

銀時がすぐ前に立つと少し甘い匂いがした。
沖田の視界が揺れた。


「悪かったな」


それだけ言って沖田よりも大きな手が頭を乱暴に撫でた。

「(あ、 )」

沖田は泣いていた。
熱いものが一筋、頬を滑り下りていた。






落ちついた後、沖田と銀時は向かい合って座った。

「お前さ、あいつと」
「まだはっきり決めてません。」
「アンタはどう思いますか?」

銀時は沖田の顔をじっ見て、いいと思う、と言った。

「お前と神楽さ、ずっと前から似てるなぁって思ってたんだよね」
「・・・はぁ。どこがですか」
「目が爬虫類みたいな所」
「真面目な話しですよ」

沖田が不機嫌な声を出すと銀時は悪い、悪い、と笑いながら謝る。
一呼吸おいて、一瞬目を悲しそうに伏せた。
沖田はその瞬間を見逃さない。

「お前らならさ、いろいろと共有できそうだなって」
「例えば?」
「孤独とか寂しさとか」

要は人が一番イタイ所、と銀時は言った。

「アンタは、・・・」


「アンタは、共有できないんですか?」

今自分は情けない事をしているのだと沖田は自覚があった。でも聞きたかった。
銀時は両手を絡ませてしばらく下を向いた。

「俺にはできねぇよ」

銀時の声は内に見せる細くて弱い部分を隠すように、よく響く声だった。
沖田は何かが壊れる音を聞いた。


己の期待なのか、

己の甘えなのか、


またそれらは銀時のものなのかもしれない。



沖田は、そうですか とだけ言って黒く重い上着を羽織り部屋を出た。

宿から出て人込みの中を沖田は颯爽と歩いた。
歩きながらドクドクと臓器が騒いだ。体がじわりと熱くなった。



「(アンタにできない事はとっくに知っていた)」



「(でもそれでも一緒にいて欲しかった)」




沖田は人込みの中をまっすぐ走った。

無性にあの顔が見たくなったのだ。

その少女はまだ若いのに、ふとどこかであきらめたような顔をする時があった。
目聡い沖田はそれを見逃したりはしなかった。
その顔はどこか寂しげで、変に大人びていた。
沖田は少女のその顔が好きにはなれなかったが、何故か見てしまうのだ。



何かあきらめたような顔。


変な所で勘が働いて、幼い少年になりきれないところ。



銀時のいうように本当に似ているのかもしれないと沖田は頭の中で思った。

















No one's perfect.










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