「見た事のない顔してたヨ」



神楽はそう言ってすでに空になったラムネのガラス瓶を目線の所まで上げて傾けた。


「そんな確認しなくても、もうすでに空でさぁ」


神楽が座っている青いベンチよりも前に沖田はしゃがんでラムネの瓶を見た。
神楽は、ふん と小さく呟いた。


「お前にはどうせ想像つかないヨ、銀ちゃんがどんな顔してたか」


神楽はラムネ瓶をまた自分の手元に下ろす。
カランと中のガラス玉が小さく音をたてた。


「まあ、おっしゃる通りですけどね」


沖田はわざと、カンにさわるような言い方をした。


「知らなかったんだもん」


神楽がラムネ瓶をベンチに乱暴に置いた。
カラン カラン
中のガラス玉が激しく叫んだ。
先程と違った声音に沖田はゆっくりと視線を神楽にやる。


「知らない顔してたヨ。私と総悟が付き合ってるって言ったら」

「笑ってよかったな、って。酷いヨ」

「寂しそうな顔して笑ってそう言ったヨ」


はらはらと少女の目から雫が落ちた。

沖田は一点をただ眺めつづけていた。

無心だった。

何も思わなかった。

わかっていたのだ。

彼がどんな顔して彼女の告白を聞いたのか。

予想はできていた。



神楽は、ひくっひくっとつまりながら泣いていた。
沖田はすっと立ち上がって下を向いて泣いている神楽の頭と自分の頭を優しくぶつけた。


「結局、あの人は自分の隣にずっと誰かがいる事なんて望んじゃいない」


神楽は返事をしなかった。
ただ肩を動かして泣いていた。

あんたが甘えさしてくれと言えば甘えさしてくれる。

それは一瞬すぎて、もっと長くあの人との温度を味わってみたいと思う。
けど、あの人はそれを拒むだろう。

あんたや俺が愛してくれと言ったら、あの人はどんな顔をする。

予想がつく、そんな顔を俺はさせたくない。見たくない。

あの人は誰も幸せになんてしない。できない。


「だからあんたも俺もあの人じゃあダメなんだ。」
「分かってるヨ・・・」


神楽は手で顔をこすりながら鼻声まじりにそう言った。


「私にはお前じゃないとダメアル・・・」


上っ面は甘い言葉だ。
でも彼らにとって、その台詞の中身は重い。

お前じゃないとダメだ。

その中身は甘いなんてもんじゃない。
逆の意味の方が合っている気がすると沖田は思う。
たくさんの理由があるわけじゃない。
寧ろ少ない。なのにずしりと重いのだ。


「一緒にいるヨ」


沖田の顔を見て言った。
何かが消えた顔だった。
あの人にまだ依存しようとする、少女特有の幼い顔ではなくなっていた。



俺は思う。
あの人は一人で生きていくつもりだろう。
でも俺達は一人では生きていけないのだ。
なら一人を嫌悪する同士が一つになればいい。
今考えれば簡単な話しだったが、そんな事を俺はまったく見当がつかなかった。
たぶんこいつも。


「・・・私が銀ちゃんの側にいてやろうって思ってたヨ」


銀ちゃんあれで結構寂しがり屋だから、

神楽はそう言った。


「(んな事知ってらぁ)」


沖田が銀時と宿で話した時に見せた寂しさを含んだ微笑みが浮かんだ。


あぁ、

あの人は生涯、あんな笑い方しかできないのか。

そう思うと胸が少しと痛んだ。
でもそれがあの人の生き方なのだから、俺達は何も言わない。

あの人は永遠に人として未完成でその穴は満たされることはない。
それは俺も同じだ。そしてチャイナも。
未完成な俺達は何か代わりを得ようとしていた。

けして埋めることのできない穴を埋める何かを。


















No one's perfect.










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