昼食のコロッケパンをチャイナ娘にとられた。
腹がたった。なんてかわいそうな俺のコロッケパン。
怪物のような胃袋に飲むように入れられ、さぞあっけない最後だったことだろう。
俺だったら味わって食したに違いない。
部活前、忘れ物に気がついたので教室に入ると、
忌わしいチャイナと真っ黒の長いストレートの女子生徒がいた。
他のクラスの人だろうか。可愛いよりも美人系。なんとも気品がありそうだった。
しかし、どこかで見たことがある気がした。それがどこだったかは忘れたが、
確か山崎が一緒にいて、その人について何か言っていた。
「あ、ちょうどいいところにきたアル」
「なんでぃ」
チャイナに声をかけられ、俺はさぞ嫌な顔をしただろう。
食い物の怨みは恐ろしいのだ。
「渡してほしいものがアルよ」
「俺は返してほしいものがあるけどな」
「男がねちねち言うなよ、銀ちゃんみたいになるぞ」
うるせぇ、誰がなるか。
坂田は嫌いじゃないし寧ろ好感がもてる教師だが、
あんな大人に自分はなりたくないと思う。
「あの、」
俺が来てからずっと黙っていた黒髪の美少女が控えめに声をかけてきた。
「これ、渡してください」
柔らかい素材のぼやけた優しい白色の封筒だった。
これは、あれではないか。俗に言うラブレターとやら。
あっけにとられながらもなんとか受けとる。
誰に、と聞く前に名前が書いてあった。綺麗な字だった。
よくあるやけに丸っこいような、くちゃくちゃな字じゃなくて形の整った字で、
土方十四朗様、と書かれていた。
「あ、思い出した。」
「・・・何をですか?」
思わず声に出してしまった。
部活中にこっそり体育館のドアから山崎を含む数人の友人と覗き見た人だ。
『あの人、土方さんが好きらしいですよ』
『あの美人が土方ぁ!?ないね。絶対ないね』
『いや、そこまで否定しなくても』
『ありえませんよ。そんな趣味の悪い』
と、こんな話しを山崎とした。
「土方さんにですね」
少女は少し顔を赤らめ、こく、とうなずいた。
わかりましたと、言って手紙をスポーツバッグに入れる。
俺は嫌な顔ひとつせず、当然あんなやつ止めとけとも、
あんた趣味が悪いとも言わず爽やかに笑って言った。
俺は初対面にはそうして自分を作るのだ。勿論言わないで思っているだけだ。
あー、俺の演技力半端ねぇ。
「あ、土方さんこれ」
部活の帰り道に例の手紙を渡す。
するとひきつった顔をする。
「今更、お手紙から始めるつもりか?」
「んなわけねーだろ、気色悪ぃ」
土方さんは手紙を受けとり、少し封筒を見て鞄にしまった。
くしゃ、と鞄の中で手紙が折れ曲がる音が聞こえた。
「まったくひでぇ人だ」
「あ?」
「いえ、これからのその手紙の将来を思って」
きっと手紙は読まれることなくゴミ箱行き。この人はそういう人だ。
顔はいいし、スポーツもできる。
だが人として少しいかがなものかと思うことも淡々とやる。つまり悪い男だ。
「もったいないですよ」
「何がもったいねぇんだよ」
「土方さんなんかに手紙を書いた時間が。」
その悪い男は、まったくだと微笑してから煙草を口に加えた。
あの黒髪の少女がどんな土方に惚れたか知らない。
だが、あの純粋なお嬢さんは土方のこんな所は絶対に知らないだろう。
あの綺麗な文字で書かれた、土方十四朗様という人を俺はよく知らない。
(知りたくもない。おぇっ)
俺が知っている土方十四朗様は、心のこもった手紙を読まずにゴミにして、
特に何も思わない、感じていない。そんな最低な男である。
こんな一面を知っているのは、俺の他あと何人程いるのだろうか。
数は少ないだろう。別に自分だけが知っていても嬉しくもなんともなかっただろうが。
しかし、知ったおかげで、この人のことがよく分かった。
分かってから、知らない方がよかったと後悔した。
自分もあの手紙同じ様にぽい、と捨てられたほうがよかったと思う。
まあ、今更遅いけれど。
「土方さん、」
「何だよ」
「俺、あんたが大嫌いなんです」
近いのに、遠くにいるみたいに大きな声をあげた。
少し前を歩いていた土方さんは目を丸くして、笑いながら振り向いた。
「んなこととっくに知ってるっつんだ、ボケ」
この時答えがでた。さっきから気になっていたことに。
何かきにくわない、ゆるくまいている渦の正体が。
「(・・・嫉妬、か)」
コロッケパンと
恋人と、