私は寝たフリをして彼に抱き上げられるのを待った。

まだ昼間だったけれど私は寝たフリをし続けた。
しかも、ソファに堂々と。
きっと彼は私を見つけたら嫌な顔して、押し入れに運ぶだろう。
ったく、しょうがなねぇなぁ、なんて小言を言いながら。




足音がした。彼のものだろう。
だって今日、新八はライブでいない。

「おーい神楽ぁ、」

玄関から私を呼ぶ声がする。
だんだんだんとその近づいてくる音。
居間に入ってきた。

「寝てんのか?」

そうだよ。寝てるの。
もうずっと、あなたを待ちながら。

「神楽ちゃーん」

見て分かるだろうに、彼は私の耳元で優しい声を出して確認する。
返事はしない。だって私は、寝ているのだから。
すると、ふっと声を出さずに彼は笑うと、ソファにのった。

あなたが上で私は下。

少しの間その姿勢のままで視線を感じた。
何をするかと思っていたら彼は私をソファの奥に追いやった。
彼は、私が移動してできたスペースに横になる。
今の彼の表情がとても気になったが、背を向けて寝ていたから盗み見る事もできない。

少しお酒の甘い匂いがした。
昼間いないと思ったらこのためだったか。
呆れたが夜いないよりもマシだったから、まぁ、新八にチクるのはよそうと思った。




お酒は人を素直にする。

たくさんの蔦に絡まれた人を一時自由にする飲み物だ、と思っていたがどうやら違った。
だって、まだ絡まれたままだったもの。
その証拠に、彼は動かないままでしょう?

もう、起きて顔を見てやろうか。




彼も寝ただろう。
そう信じてそっと目を開けた。
30分ぐらい目を閉じていただけなのに、なんだか何年かぶりに明かりを見たような感覚になった。
しかし、私の視界はまた暗くなる。
何か大きくて、それでいて安心するものが優しく私の目を覆った。
それが彼の手であると分かるのにそれほど時間はかからない。
私は彼の手を自分の手で触り、掴んだ。

しばらくして、彼は起き上がって私に短いキスをした。

私は彼の手を離さなかったし、私が離しても彼はきっと、
手は退かさないだろうと思った。





彼が私に寄り添ったのは私が寝たフリをしたように、寂しかったからで、

彼が私に口付けをしたのは私が彼の手をつかんだように彼もまた、恋しかったからだろう。


お互い、同じ事を思っていたんだと分かると、何だか可笑しくて小さな声で笑ってしまった。
彼もまた同様に喉をくくっ、と鳴らして小さく笑った。
私はまた彼がどんな顔をしてるのか見たかったが残念ながら私の視界は真っ暗で、


でも、私はそれを退かしたくなかったし、

頼んでも彼はきっと退かしてはくれないだろう。















闇の
















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