「消えた夏」の続編








夜になってやっと暑さがやわらいできた。俺は自室の襖を開けて畳の上に寝転ぶ。
ここのところ徹夜続きでもうくたくただった。
少しうとうとしていたのだろうか。気がつくと間近に人の気配があった。
閉じていた目を開けると沖田が俺を跨いだ状態のまま武器である傘で俺の頭を突いている。

「・・・お前かよ」
「悪い?」
「いや、絶景。」
「セクハラで訴えるぞ、ハゲ」
「それでも変わらずに傘で俺を狙うお前はどうなの」

うるさい、と言ってまた傘の先で小突く。
こっち向くな、と言われたので顔を横に向ける。

「で、どうだったよ?」
「田舎は暑かった」
「感想それかよ」

俺はふ、と笑う。



「行ってきたよ」




沖田はそう言った。表情は変わらない。
だが声の微々たる変化を俺は感じとる。

「そう」

「花も綺麗なのに変えて、雑巾でごしごしふいた」



「もう、・・・一番綺麗な墓にしてやった」

「総、」
「こっち向かないで」

傘の先が俺の頭にあたる。

「死ねばいいのに」

「あんたは早く死ねばいい」


ふるえた声で言う沖田の傘から銃弾はでない。
そのことを俺は知っている。

俺の、白い手袋をはめている手は見事にぴくりとも動かない。
動かそうとしたって手は無反応で、
まるで俺の意を拒むように、死んだように床に横たわったままだった。



(きっと何処かであなたが怯えてるのよ、)



声が聞こえる。
ついに仕事のしすぎでおかしくなってしまったのかもしれない。


澄んだ声音だったが、どこかやわらかく反発していた。



(手が動かないのは貴方が拒んでいる証にほかならないわ)




その澄んだ女性の声は俺のことなど全てお見通しのように言う。



(結局、あなたは逃げたのよ)



その時、彼女の表情を知りたかったけれど、
声だけの彼女には当然そんななものはなかった。


今聞こえたあの言葉が彼女の内の奥に秘めた本心だったのかもしれない。





沖田は引き金をひかない。

俺の手は、動かない。





















もうすこしだけ
















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