坂田君は1年生設定です
「べっ、弁償ですか」
土方は顔を引きつらせて、空き教室で椅子に座って足を組んで座る服部を見る。
「当たり前でしょ。窓ガラス割ってんだから」
服部は若干呆れたような口調で言う。彼の右頬は少しだけ赤く腫れていた。
「おい、反省してんのかそこの馬鹿」
服部の言う、そこの馬鹿とは土方の隣でつまらなそうな顔をしている、窓ガラスを割った張本人坂田銀時である。
事件はC組とD組合同の体育、ソフトボールのクラス対抗試合で起こった。
D組のヤクザの息子、黒駒勝男が投げたボールをバッターだった坂田が思いきり打ち、そのボールはどんどん飛距離を伸ばして飛んでいった。
そして、最終的に教室の窓ガラスを破り、そこの教室で「平安時代の女性の美しさは現代にも通ずる」という説いていた日本史の教師、服部全蔵の右頬にめり込んだのだ。
「近藤先生が出張で今日は土方先生が代理で体育を監督してたらしいですけど、気をつけてくださいよ。俺もこんな怪我するし、」
「本当にすいません。この馬鹿にもよく言っときます。おい謝れ」
土方が真摯に謝るのと同時に、土方の手が坂田の頭をがしっと掴み強制的に頭を下げさる。
坂田は土方に無理矢理頭を下げさせられ、ムスっとした表情で、小さく「すいません」と謝った。
「次はねぇからな馬鹿」
服部が坂田に警告する。
「・・つーかさ、」
坂田が今まで我慢していた何かを吐き出すかのようにゆっくり呟いた。
「さっきから馬鹿馬鹿うるせぇよ!説教垂れるにしても名前で呼べよ!」
坂田はすぐに顔を上げ土方の手を払いのけて服部と土方に怒鳴る。
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いんだよ。しかもホームランならともかくファールで窓ガラス割るって何だお前。馬鹿だろ、馬鹿にも程があるだろ」
「服部先生の言う通りだぞ坂田」
容赦ない服部の返答に土方が同意する。
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪い」
「そこに同意するのかよ!あんた本当に俺の担任!?」
「とにかく、金払え坂田」
坂田のツッコミを流して服部がそうきっぱり言い放った。
「……あのさ、こういうのって学校の経費?みたいなので何とかならねぇの?」
先程の怒声と打って変わって、自信のなさそうな声で坂田は服部に訪ねる。
「なるかよ。二週間前に強化ガラスに買い換えたばっかだぞ。払えよ三万五千円」
服部がすっと坂田の前に手を出し、要求する。
「勘弁してくれよ。そんな大金持ってるわけ、」
「じゃあこれ、三万五千円です」
坂田が言葉を言い終わらない内に土方がスーツの胸ポケットから財布を取り出し、札を数枚出して服部に渡した。
坂田が意外そうな表情で土方を見る。
「勘違いするなよ。俺が変わりに建て替えてやっただけだ。必ず返せ」
土方は財布を胸ポケットに戻しながらそう言った。
「…んじゃ、金も貰ったし俺は職員室戻るわ」
服部はだるそうに立ち上がり、ぺたぺたとスリッパの足音を立てて教室を出て言った。
一瞬静かになった教室で坂田は気まずそうに頭をかく。
「……あのさ、」
「あ、三万五千円は勿論自分で働いて返せよ」
「え?」
土方の一言に坂田は聞き返す。
「お前が馬鹿やって払う事になったんだから、お前が自分の金で払うのは当然だろ。家から金持ってくんじゃねぇぞ」
「ちょっと待った。つまり、出世払いとかじゃなくて今すぐバイトってしろって事?」
「社会勉強にもなるだろ。金を稼ぐ大変さを知れ若者」
「一日学校あって、それから寝ずに働けと?!」
「坂田、」
土方が坂田の肩に手をぽん、と乗せる。
「なんだよ!」
「そういえば、もうすぐ夏休みだな」
「あっそっか!そうだったよちくしょー!」