女の気持ちなんてワカリマセン。
どんな食べ物が好きで、何を貰って喜ぶとか全くこれっぽっちもシリマセン。
別に知る必要もないんです。


なにせ自分はゲイだから。





ノック&トライ、トライ&エラー






ゲイで何が悪い。
さらにいうならば自分がゲイということを隠してなくて何が悪い。


「土方君、かっこいいけど実はあっちなんだって」
「えーうそぉ!マジで!」
「もったいなぁ・・・」

全然もったいなくない。
化粧ぬりたくって、唇びっくりするくらいテカテカにして、
もう、まつ毛とか不自然なくらいバッサバッサにして、
ばかみたいに高いエクステとやらを使って、そこまで金かける価値なんてあるのかね。


「さいあくー。あたし狙ってたのに」


ザマーミロ。








****



「ばかですか、あんた」
「何でだよ」


大学の食堂で昼飯を食っていたら沖田がわざわざ俺の向かいの席に座った。

「なんでいちいち自分がゲイだと言って断るんですか」
「しつこいからだよ」
「あーあ、もったいない。女に興味ないなんて、」
「うるせえなぁ、いいだろ別に」


沖田は、ま どーでもいいですけど。と言ってラーメンを箸でつつく。
おい、それ俺のなんだけど。

「あ、土方さん」
「あ?」
「彼女、できたんですって」
「誰が? っかラーメン返せ」
「うわぁ、チャーシュー超うめぇ!・・・坂田ですよ、あんたよくつるんでるじゃないですか」
「は?」



俺はその時心底嫌な顔をしたに違いない。(別にチャーシューは関係ない)






****



一日の講義が終わって大学の外のベンチに座ってからもたれて煙草を吸う。

「あー、だる」


『彼女、できたんですって』


なんてこった、まずそう思った。

坂田とは今年初めて会ったくせによくまぁ喧嘩して、よく一緒に飲んで、
いつのまにかつるむようになった。坂田が俺をゲイなのか知っているのかは知らん。
たぶん知らないだろうと思う。


「はぁー・・・」

坂田に興味が出たのは俺の小さな疑問から始まる。
『こいつ、セックスしてる時にどうゆう顔してんの?』
総悟と坂田とで三人で飲みに行ったときにふと頭によぎった。


で、

考え出したら、案がでるわでるわ。(酒の力ってヤツはすごい)
結局何が正解か知りたくて出ちゃったわけだ。興味が。(性的に)
そのことを俺がゲイだと知る山崎に話すと頭が痛そうだった。
あんたも物好きですね、ノンケを食うなんて。と言われた。
おう、と平然と返したらますます頭が痛そうだった。



『彼女、できたんですって』


どんな女だろう。
どうする、もし甘ったるい香水体に染み付けて金髪で唇てかてかで・・・
たぶん俺は坂田を殴る。いや、殴りたいと思う。



「あれ?土方」
「え?」

と自分の世界から帰ってくると前には坂田がいた。
いや、坂田と腕を組んでいる女もいる。

「お前、今日もう講義ねぇんだ」
「あ、おぉ・・・」

隣の女をちらりと見る。金髪に巻いた髪。
ふわふわの猫っ毛で、こいつ目はもともとでかいっぽいが睫毛はつけている。
あとやけに肌が白い。ゆえに、「こいつ本当に日本人?」といいたい。
なんか人形みたいな女だった。
俺がジロジロ見すぎたせいかしらんが女は頼んでもない自己紹介をした。


「えっとぉ・・・銀ちゃんと付き合ってるまゆって言いまぁす」


『銀ちゃん』ね『銀ちゃん』、ハイハイハイハイ。
普通ならここで、よろしくねとか微笑んだり、なんで言わなかったんだよ〜とか坂田に言うんだと思う。
しないけど。前者は当然やらない。俺がやったら相当気持ち悪い。
後者は・・・迷ったが自分がガチで嫌なオーラを出して、
なんでいわねーの、お前、と喧嘩を売りそうになりそうだったのでやめた。


「へー初めて見た」
「あー・・・俺あんま人に話してなかったから」


はは、と少々申し訳なさそうに笑っている。
なんで言わねーんだよ。
そういう妙に秘密主義な所にむかついた。

「ふぅん…何お前らデート?」
「デートっていうか、これから銀ちゃんの家に行くんです」

彼女がそう言うと坂田が、余計なこと言うなって、と言った。


余計なことって何?







****



「彼女、みたんですかぃ」
「ああ、」
「どうでした?あんたの嫌いなタイプ?」
「そりゃあもう、どストライクで」
「あらあら」


ラーメンの汁まで全て遠慮なく総悟は飲み干した。


「そろそろ潮時ですぜ」
「何でだよ」
「だって好きじゃないんでしょ?」
「・・・・・・」
「ただあんたは坂田がどんなセックスするのか興味があるだけで、それは好きじゃないでしょう?」



まぁ確かに。好きなの?って聞かれたら、好きじゃないって答える。
そもそも坂田は好みのタイプではなかった。
(ちなみに、好きなタイプは包容力があって器がでかくてたくましい体型の人です)


「坂田なんてあんたの理想のタイプの条件と一つもあってないじゃないですか」



激しく同感だった。







****



今日の大学での一日を終えて、さっさと帰ろうと歩いていた。

「土方さん?」

声のする方を見ると坂田の彼女(名前忘れた)がこちらに向かってきた。


「今から帰るんですか?」
「そうだけど」


近くで見れば見る程、目がでかい。すごい威圧感だと思う。
これが目力ってやつか。


「あの、よかったらスタバでも一緒に」
「なんで?」
「その、友人達のを断る理由が・・・」


見ると少し離れた所で3、4人の女子が集まってなにやら話していた。


「でもあんた、彼氏いるのにいいの?」
「いいですよ、だって土方さんゲイでしょ?」



あぁ…納得。


女に促されるまま駅前にあるスタバに行ったものの、
冷静に考えればなぜ俺がどストライク級に嫌いな女とこんなことをしているのだろうか。
完璧に流された。正直いって、


「めんどくさいんです」
「え、」


自分の考えが読まれたと思って驚いた。


「女友達とか、」
「あ、ふーん・・・」


そっちね、と安心してから女って大変だな、って思う。

「大変だね」
「超どうでもよさそうですね」
「超どうでもいいもん」


この女が俺をゲイだと分かっていると聞くと気を使うのも馬鹿らしくなったからやめた。


「・・・銀ちゃんならもっといいコト言ってくれます」
「あーそうですかそうですか」

お前に言われなくたってそーぞーつきますそれくらい。
親身になっちゃったりするんだろ。あいつ馬鹿だから。


「土方さんは女性に冷たいですね」
「普通だよ」


嘘です。かなり冷たいです。
だって興味ねぇもん。




「・・・好きなんです」


「は?」


時が止まった。


え?今何て言った?

正気かこいつ。



「ずっと前から好きです」


こちらを見て、頬を赤らめる坂田の彼女。


「はぁ!?あんた坂田と付き合ってるんだろ?」
「それは・・・」

待て待て待て待て。

どうしてこうなった。



「銀ちゃんが土方さんと仲良くて、銀ちゃんと仲良くなれば土方さんとも近づけるなぁって…」
「どっちが告白したんだ」
「・・・銀ちゃん」
「あんたオッケーしたんだろ?」
「・・・そりゃあ銀ちゃんだってかっこいいし優しいからいいかな、って気持ちが揺れたの!でもやっぱりって今…」



あぁ・・・ホントはこうゆう顔してんだ、と思った。



と、同時にキャラメルマキアート(アイス)をつかんで顔にかけた。


涙とキャラメルマキアートが一緒に流れている。

俺は千円おいて席を立った。

女の泣き声が聞こえる。


死ねばいいのに、一瞬本気で思った。








****



翌日の昼、坂田が声をかけてきた。

「久しぶりに飯、一緒に食わねー?」

一緒に食堂に向かった。
声の調子から昨日のことなどまるで知らないようだった。

「土方なに食う?」
「A定食」
「うは、金持ち。俺はうどん」
「お前今日彼女は?」
「…あー今日来てないみたい」
「ふーん」

別に昨日のことを知っていともいなくてもどっちでもよかった。
もともと坂田には性的に興味があるだけなので、
この間の事を知られて坂田との関係が壊れても別にいいと、俺は思っていた。

席に座るやいなや坂田は言った。



「昨日、深夜にうちにきてさ」
「・・・誰が」
「彼女」
「―・・・で?」
「来るなり急に抱き着いてきて、ヤろうよって誘われた。びっくりしたよ、急になんだよって」


坂田は不思議な顔をしていた。口は笑っていたけれど目はどこか冷ややかでどこを見ているのかわからなかった。


「で、結局?」


「あまりに必死だったからヤっちゃった」


坂田は笑った。



どっちでもよかった。だってこいつ俺のタイプでもねぇし。
俺はもっとでかい男が好きなんだよ。ほら、デカイってあっちの方も。
こいつは見るからに小さそうだろ。男としても、あっちの方も。
だからさぁ、もうほんと、


どうでもよかったんだよ、

俺は。




席を立って水が入った紙コップをおもいっきり投げ付ける。

「ばっかじゃねぇの!!」

坂田の前髪から水がたれる。
顔から笑みは水と一緒に流れ落ちた。

俺はかばんを肩にかけて随分早いあしどりで食堂を出て大学を出て、外に出た所でしゃがんだ。



少し息がきれている。

体が熱い。

「ほんと、馬鹿じゃねーの」




「ほんと馬鹿。馬鹿すぎて泣けてくる。頭パーだもう、もう・・・」

言葉の続きが出てこない。


胸が異様に高鳴る。

なんでかは自分でもわからないし、知りたくもなかった。






























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