「おい、沖田落ち着けって!」

原田が今にも動き出そうとする沖田を両手で必死に止める。


沖田の目は血走っていた。
沖田の目線には永倉がいた。
永倉は地べたにいて、殴られて口の中が切れたのか口元から少し血がでていた。
おい、大丈夫か、と隊士達が永倉にかけよる。
永倉の左腕からは永倉の口からでているよりも、赤黒くてたくさんの血がどくどく出ていた。


「なんでかばった」


沖田は永倉をにらみつけ、低い声で言った。

「・・・沖田さんは、斬られていました」

永倉は顔も見ずに静かにそう返す。
沖田は永倉の言葉にまた怒りを覚えた。

「背中護ってもらう奴はうちに必要ないんだよ」
「あなたが斬られる所を僕に見ていろと?」
「なんで斬られると判断した、それぐらいよけれる」
「斬られていましたよ」

永倉は沖田の顔を見て言った。
沖田は顔をしかめた。



「沖田さんの腕もってかれるのと、僕の腕もってかれるのとでどちらが正しい選択か解るでしょう?」


沖田はまた前に出ようと勢いよく動いたが、原田ががっちり押さえており動けなかった。


「なんで、なんでそんな冷静なんだよ・・・」


あの人みたいだ、と沖田は言うのを止めた。

永倉は何もいわず沖田からすっと目をはなした。





「おーい、お前ら何してんだ」
「あ、副長」

原田が呼んだのだろうか、沖田は内心で舌打ちする。
土方はこちらに歩いてきて沖田と永倉の間で止まると、帰るぞ。とだけ言った。
永倉は隊士に連れていかれ、原田も同行した。



「珍しいな、お前があそこまで怒るなんて」

土方は穏やかにそう言って沖田の前に立った。
土方は沖田の頭の上に手をのせようとした。


「あんたには、こんなマネできっこないですもんね」


土方は手を止めて、行き場のなくなった手をポケットにつっこむ。

「こんな風に怒ったり、とり乱したりもできませんもんね」
「沖田、」

沖田はじろりと土方を睨みつけた。

「分かってますよ。あんたが一番人間らしくふるまってる事くらい、」

沖田はそう言うと土方の横を走って通り過ぎた。





走りながら沖田は 気に喰わない、と思う。



なんで永倉は自分をかばったのか、



なんで土方が来たのか、



なんでもう一発殴らせてくれないのか、


なにもかも気に喰わない。



土方が嫌いだ。




それを目標にする永倉はもっと嫌いだ。

永倉、あの人は鬼なんだ。

人間の皮を被った鬼。

あいつには本当の顔がない。


私らに見せる顔は全部作り物なんだ。

それに気付かない永倉を、



沖田は妬み羨んだ。



















のっぺらぼう
















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