昔、初夏のころ。まだ武州にいて沖田が姉のミツバに手をひかれて道場にいっていた頃の事である。 ミツバはいつも稽古の終わりの時刻になると紫の日傘をさして道場に顔を出した。 ある日、ミツバは紫の日傘に空色を基調とし、桃色の花が彩ってある着物を着ていた。 その姿は美しかった。妹の沖田でさえそう強く思った。 それから沖田は紫の傘が欲しいとよく言っていた。 ミツバはそれを聞くと、年頃になったらね と言った。 年頃になったらこの空色の着物もあげると。 沖田は喜んだ。幼少の頃の沖田にとってミツバは憧れだった。美しい長い髪、白い肌、そして何より品があった。 近藤にその事を話すと近藤はきっとなれるさ、と言った。近藤の言葉に沖田は嬉しくなりますます紫の傘と空色の着物への想いは強くなっていった。 家で、早く年頃にならないかなーと沖田が言ったのが可笑しくて愛らしいと思ったのをミツバは十二年たった今でも覚えている。 今年で沖田は十八になる。まさに年頃だ。



手紙で久しぶりに江戸に来るとミツバは沖田に伝えた。人があふれかえる江戸の駅でミツバは沖田を見つけた。自分と同じ明るい髪の頭だけの後姿を見つけた。 沖田の髪はすっかり伸びて今は一つにまとめれるほどになっていた。 ミツバはそれが少し嬉しくて「総ちゃん!」と呼んでかけていく。 沖田は気付かないようで辺りを見渡していた。 ミツバは人の間をとおりながら沖田に近づく。 そこでふと沖田の全体が見えた。 紫の傘をもっていた。 あ、とミツバの顔が綻んだが沖田は着ていた服は淡い色の着物ではなく真っ黒なおもそうな服だった。あれが組の制服だと分かるのに時間はかからなかった。 ミツバは立ちどまった。 何かが違ったのだ。紫の傘を持っている沖田が。 すると沖田はミツバに気付きこちらへかけよってきた。ミツバはすぐ笑顔にきりかえると沖田の弾んだ声に相槌をうった。

ミツバの手には風呂敷があったが、沖田が来る途中にとっさにミツバは手を後に回した。あの空色の着物が中に入っていた。 渡せない、ミツバは思った。 十八の沖田は美しくなっていた。やはり姉ゆずりで肌は白く、品がある顔だちだった。 きっとこの着物が似合うことだろう。 それでもミツバこの着物はそのまま持って帰って昔沖田が使っていた棚にしまおうと決めた。 その棚は沖田がまだミツバの手をひかれて道場に通っていた頃使っていたものだったから。













女として
   生き抜くこと

















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