殴られるかと思った。
まぁ、泣かれはしたけど。
それでも止めなかった。
白い少女は、嫌いと最中に呟いた。
俺を止める為だったのか、本当に嫌いになったのか。
どっちだってよかった。
言われたことにもう意味がある。
「神楽ちゃん、まだうちに泊まるって言ってますけど・・・」
ある日曜日の午後新八が困った顔をして言った。
「銀さん、神楽ちゃんに何したんですか?」
その問いに、嘘偽りなく答えたら、お前、ぶっ倒れるだろうなぁ。
神楽にちょっと手出したなんて言ったらよ、
「うるせぇなぁ。俺ぁ知らねぇよ、」
「とにかく、喧嘩なら早く仲直りしてくださいね。今だって散歩とか言って神楽ちゃんいないし」
喧嘩じゃねぇよ、新八。これは俺の失恋。
今だってあいつは散歩とか言って、計画的にサドの王子様といるわけだ。
「横恋慕、なんて柄じゃねぇな」
よりによってあんなガキ。
頭どうかしてるわ、俺。
午後4時。季節は文月。
真っ赤な夕焼けがちょうど出てきた。
ガラガラと扉が開く音。
運悪く新八は買い物で出かけたところ。
「・・・ただいま」
隠してはいるみたいだが、全身で俺を警戒しているのが丸わかりだった。
「おー、お帰り。」
ぎこちないただいまに、いつも通りのおかえりを返す。
神楽は少しだけ、ほっとした顔をした。
「お前今日、新八ん家行くんじゃねぇの?」
神楽は夜8時を過ぎても家にいた。
「やっぱり止めたヨ。」
おいおい、と若干焦る。神楽に手を出したのは二日前。
予想より随分早いご帰還だよ。まぁ、ほっとしたが。
「風呂、沸いたから入れよ」
「うん」
嬉しそうに返答する。
日常に戻れたと思って嬉しいのか。
だからあんなに微笑んだのか。
ふぅ、とため息をついて、自称社長椅子に腰かけた。
「(二日前はあんなに泣いてたのにね、)」
今日会ったであろうサド王子が何か言ったのか?
いやいや、あいつはそんな親切な奴じゃない。
だって似てるんだ。br>
「銀ちゃん!!」
は、と我にかえるとアイスをもった神楽が目の前に立っていた。
「何回呼んでも上の空ヨ」
「あぁ、悪い悪い」
「これ、割って」
そう言ってチューパットを一本、俺に手渡す。
「こんなもん自分でできるだろ」
(なんで、こんなに自然なんだ)
「割って欲しいのヨ」
(なんでわざわざ関わろうとするんだか)
パキっとアイスが二つに別れた。
ほらよ、と返す。
片方あげる、とまた手渡される。
俺ぁいいよ、とやんわり断る。
「銀ちゃんらしくないヨ。」
アイスを貰わないのが?
二日前のが?
「アイスを貰わないのがヨ」
澄んだ青い目が、俺の手を欲しいと言った。
(サディスティックな王子様よ、汚いと思うか?でも本当のことさ)
神楽の頬に触れる。二日前も同じことをした気がする。
柔らかくてしなやかな肌は女のものだった。
「いやって言わねぇと」
「男は狼だから?」
ああ、そうさよく分かってるじゃない。
「そう、男は変わる」
「でも銀ちゃん、二日前は」
「おやすみ 神楽」
頬にあった手を頭の上にのせた。
ほら、まだ簡単に頭に手を置けれる。
こいつはまだ子供だ。
「おやすみ銀ちゃん」
おやすみ。
子供は早寝するもんだよ。
おやすみなさいと彼女は