12月24日。
クリスマスイブ。
自宅にて、一人。
その三つの単語がぐるぐるぐる頭の中で廻っております。
本当は辰馬と飲みにいく予定だったのだが、風邪をひいたらしく中止となった。
馬鹿は風邪をひかないってのは、こんな時代になったら通用してくれないのね。
そんなこんなで俺は一人ぼっちのクリスマスをエンジョイしている。
今、午後9時35分。
ケーキの一つでもコンビニで買ってこようか、と考えたが後で首を横にふる。
こんなカップルだらけの夜の街を歩くのはいやだ。しかも一人でコンビにでケーキ買って帰るって。
「空しすぎる。」
ぼそりと呟く。随分寂しく響いた。
こたつに横向きに頭をのせる。
顔の近くには灰皿があってには灰がたまってるのに気付く。
そんなどうでもいい発見をしているとチャイムがなった。
「こんな時間に誰だよ、」
「僕ですよ。」
「あれ、新八じゃん。何してんの?」
ドアの前でダウンジャケットを来て、寒そうに縮こもってる新八がいた。
「あの、とりあえず入れてもらっていいですか」
「ああ、うん」
新八はこたつに入り、あーやっぱこたつはいいなぁ、なんて言っている。
俺がカフェオレを渡すと、あ、どうも、と言って受け取った。
鼻が真っ赤だよ新八君。
そう言うと、新八はそりゃそうですよ。外の気温5℃ですから、と返した。
「お前今日、神楽とお妙とゴリラでパーティとかじゃねぇの?」
「そうですよ。もうすごかったですよ、神楽ちゃんは食べ過ぎるわはしゃぎすぎるわで。」
新八達のパーティを頭の中でもやもや想像した。
恐ろしいな、と思う。
「姉上はお酒を間違えて飲んじゃって」
恐怖がさっきの二乗になった。
「誰だよ、酒持ってきたの」
苦笑いしながら聞いたら、近藤さんですよ、と新八はため息まじりに言った。
「あのメンバーじゃあ、今日はお疲れだったな新八」
「ええ、そりゃあもう」
新八は強い口調ではっきりと言った。
労いの言葉をかけたのが間違いだったか。
新八は散々な目にあった事をしゃべり始めた。
この絵は、最近ドラマで見た。ご近所の人のグチを言う嫁と黙って聞いてやる旦那。
まさにそんなシーンじゃないか、と馬鹿な事を考える。
ちなみに新八の苦労話はあんまり頭の中に入ってきてない。
新八はカフェオレを飲むとふぅ、と息をついた。
俺のカフェオレはとっくに空である。
「ちょっと落ち着きました」
「あんだけしゃべればね」
「生徒のグチを聞くのも先生の仕事ですよ」
「俺ぁ、家に仕事は持ち込まない主義でね」
イヤミったらしく返してやると新八はくすっと笑った。
ホント、あんた子供みたいだな。 新八は笑ってそう言うと、俺の顔を見た。
「なに?」
「でも、なんだかんだで僕のグチを聞いてくれましたよね」
結局、先生は優しいんですよ、と新八は言った。
そりゃどうだかね、と俺が言うと、 新八はまだ隠しますか、と言った。
「あたりまえよ、新八。大人は隠し事が多い生き物なんだよ」
「ただの照れ隠しにしか見えなかったんですけど」
そんな事ねぇさ、と言うとはいはい、と適当な返事がかえって来た。
「で、新八君はグチを聞いてもらいに来たの?」
「まあ、そんな感じです」
「わざわざ寒い中ご苦労様」
意味もなく新八に向かって手を合わせる。
「本当ですよ。こんなクソ寒い時に来たんですから、感謝してください」
新八君、今度は鼻だけじゃなくて顔も少し赤いよ。
「わざわざありがとうございます」
俺は合わせた手をこすり合わせて、新八を拝んだ。
それを見てふふっと短く新八が笑った。
時計を見ると午後10時だった。
まだまだ24日だ。
俺はこのチャンスを逃したりしない。
「なあ新八、」
「はい?」
「コンビにケーキ買いに行こうか」
新八は、いいですよ、と笑った。
俺達はクリスマスムードに染まる、緑と赤の街を歩いた。
まあ新八もここまでは可愛いかったのだが、途中で、
あ、当然僕の分も先生の奢りですよね。
と言ってきた。
こんな言い方をした時の新八は、うん、意外の返事に耳を傾けない。
「しょうがねぇなあ」
「どうもどうも」
イルミネーション綺麗ですねーなんて言って、俺は、そうだな、とか返しながら、夜の街の短い散歩を楽しんだ。
最初、あんなに毛嫌いしてたのはどこの誰だったんだか。
その後、コンビニで小さいケーキを二個買って家に帰った。
「やっとクリスマスっぽいですね」
「俺はクリスマスだなんだってあんまりはしゃがないから」
「一人クリスマスにならなかった事、感謝して下さいね」
「へいへい、感謝してますよ。このケーキがプレゼントっつーことで」
「やっすいプレゼントをどうも」
「いえいえ、どういたしまして。新八君が喜んでくれて僕は嬉しいよ」
「まあ、僕からのプレゼントはないんですけどね」
「あ、それは大丈夫。体で払ってもらうから」
「古いんだよ。そのお約束ネタ」
「先生は古いネタを大事にしてるんだ。あとこれネタじゃない」
「もういい。ちょっと黙れ腐れ天パ」
新八君、顔がまた赤いよ。
そう言ってやると、そりゃ赤くもなりますよ、と言った。
いつもならこんな反応しないと思う。
このまま、ダラダラした雰囲気のままだと思ってた。
クリスマス万歳。
クリスマス捨てたもんじゃないね。
「こんないい事があるんならクリスマス好きになろうかな、」
「不純な動機ですね」
「かまわねぇさ、クリスマスはみんなが幸せな夜を過ごす日だろ?不純だろうがこれが俺の幸せ」
「まあ、幸せな夜の感じかたは人それぞれですけどね」
新八はコーヒーを飲んで、
ほっと一息ついた。
「で、先生はクリスマスが好きになったんですか?」
「それは今夜のお前次第だろ?」
質問を質問で返す。
新八は、にこっと笑うと、
じゃあ、クリスマスなんて好きにならなくいいですよ。このセクハラ教師。
と一括。
残念ながら本当はもう好きになってるよ。
新八と二人っきりの夜を過ごせて。
なんてクサイ事を言って、新八のツッコミ待ちをしていたが、新八は耳まで赤くなっていた。
「やべ、本当に好きになった」
思わず声が漏れた。
「本当ってなんですか」
絶対零度ってこの事か、
新八君、君は切り替えが早過ぎて困る。
俺がにこっと笑うと、新八もかわいらしくにこっと笑ってとりあえず右ストレート。
まあ、新八の赤面顔を見れたのだからこれぐらい安い、安い。
聖なる夜