西瓜を五階から落としたらどうなるか、
厚い皮は粉々に砕けて、淡い赤の実がぐちゃりと四方八方に飛び散る。
その情景を思い浮かべてから、隣で寝息をたてているこいつを落としたらどうなるだろうと高杉は考える。

残骸はきっと西瓜とそう大差ないだろうな、




「何考えている」
「お前と西瓜」
「どんなコンビネーションだ、それ」

高杉は今の今まで考えていたことを桂に話した。
それを聞いた桂はとても嫌な顔をした。当然である。

「まあ、残骸を見たら、たいして変わらんだろうな」
「だろ?ああ、でも西瓜が落ちたらなんも感じないがお前が落ちたら泣くよ、俺は」

桂はまた変な顔をした。
高杉はくっと喉を鳴らして笑った。



「有り得んな」

桂はそれだけ言うと立ち上がり着物を着た。

「もう帰るか?」

高杉が笑った顔で聞く。ああ、帰るさ。
桂はそれだけ言って戸を開けた。




まだ早朝だった。
辺りは薄暗かったが、それは追わる身である桂には好都合だった。
冬の冷たい空気が柔らかく桂の顔に触れる。


『泣くよ』


嘘吐きめが、と桂は思う。



時は人を変えた。
高杉が泣くなんて有り得ない。
誰が倒れようと消えようともう泣くことなんてないだろう。


高杉は泣かない。

泣かないんだ。

泣かないし、誰も愛しいとも思わない。


どうせ俺が落ちた西瓜になったとしても、どうせ喉を鳴らして笑うだけだ。



あっけねぇなぁ、



そう言うだけだろう。

「・・・そう言う奴だ」

桂は、広がった想像に歯止めをかけるため誰もいない道でそう呟いた。
と、同時に白い息も一緒に出た。

「お前は本当にくだらない事を考える」

ため息まじりにそう言ったらもっと白い息がでた。



本物の高杉と違い桂の中の高杉はいつも泣いていた。

「俺も本当にくだらない事を考える」


別に歯止めをかけるためじゃない。
自然と口からこぼれたのだ。


















西瓜
















inserted by FC2 system