「いらない」

沖田は俯いたまま、ぽつりと呟いた。

「俺が買ったんじゃねぇ」

土方がそう返すと少女は睨みつけた。
馬鹿げてる、と土方は思う。どうせうん、と頷いても同じ顔をするくせに。

「こんなもの」

と沖田は言ったが、
畳の上に広げられたその空色の着物を見る目は眩しいそうで、
触るその手つきは優しかった。

「お前の姉が持ってきてたんだよ」
「なんであんたが」
「そのまま持って帰ろうとしてたからな」

だから俺が止めたんだ。
と話すと沖田は困ったような顔をした。
土方は部屋を出ようと襖に手をかけた。

「待って」

手を離す。

「他には」

再び襖に手をかける。
おい、と沖田が呼んだ。

「心配だってよ、お前が」
「それだけ?」
「おう」
「・・・馬鹿みたい」

沖田は一言呟いた。 土方は部屋をでる。
土方が部屋を出てから沖田は着物を手にとった。
鏡の前に立って、制服の上から羽織ってみる。
沖田の明るい髪によく似合った。

「・・・・」

そう思うと同時にこんな格好見せられない、と思う。
土方がいない時に近藤さんには見せようと思った。
絶対言うだろう、そっくりだって。

「馬鹿みたい」

鏡の自分に向かって唾を吐きすてるかのように沖田は言った。
こんなまね事している自分も、
この着物を持ってきた土方も、
全てが馬鹿馬鹿しくて腹立たしかった。
沖田は刀を持つ。

「(こんなもの、)」

だが運悪く近藤が入るぞー、と言ってきたので急いで刀をしまう。
この人に悲しい顔をして欲しくなかった。
沖田の格好を見て近藤は少し驚いた顔をした。
それから、今度はちゃんと着た格好を見せてくれよ、と言った。

「きっと別嬪だぞ」
「そうですかね、」

すると土方が沖田の部屋の前に来た。

「近藤さんいるんだろ?はいるぞ、沖田」

沖田から思わずげ、と声がでた。土方は眉をしかめた顔で襖を開けた。
それから あ、と沖田の格好を見て呟やく。

「何だよハゲ」
「ハゲてねぇだろ、」
「で、何」
「似合うじゃねぇか」
「だろ!トシもそうだろ!」
「うるせぇなぁ、このオッサン二人」

まさか、と沖田は瞬時に思う。
まさかあんたからそんな言葉がでてくるとは。

「いやー。しかし総悟はほんとに姉に似て綺麗になったなぁ」

沖田はどきりと胸がなった。

「(そこはダメでしょう)」

腹の中でそう少し焦りを感じながらも、
でも、あの男だ。きっとうまいこと言う。
とも思った。

「どこが?」

はっ、とわざと小ばかにしたように笑って土方は一言そう言った。

「(うぜえ)」

案外さっぱりした答えが逆に鼻についた。

「なんだよ」
「べっつに」
「ちゃんと着た時にゃあ俺にも見せろよ、茶化して笑ってやる」

そうやって言う土方の表情がいつもより柔らかかった。

ほんとに馬鹿じゃないのか、こいつ

と沖田は思った。が、口にはしなかった。
こちらがいろいろと気をもんでいたのに
奴の今の言葉で全て無駄だったようではないか。
阿保らしい。

「じゃあ、土方さんこれに似合う簪買ってきてください」
「俺が選ぶのかよ」
「毎晩、女に買ってあげているんでしょう?」
「・・・誰からそんなこと聞いた?」
「あたしよりあんたの方がセンスってのを分かってるでしょ」
「シカトか」
「お願いしますね」

そう言って軽やかに襖を開けて廊下に出ていった。

「あの恰好で出てどうすんだあいつ」
「見たかトシ?今の総悟の顔、」
「ああ?」
「やっぱりアレだな」
「・・・どれよ」
「だから、総ちゃんもさー」

近藤はにんまりとした顔をして土方を見る。
土方は、わざとはぁと軽いため息をついて煙草をくわえる。

「女の子ってことだよ」
「そーみたいね」
「近いうちに買ってやれよ」
「分かってるよ」
「別嬪さんになったよ、本当に」

親父か、と土方は小さく笑った。

「んだよ、お前もそう思ってんだろ?」

土方は煙草の煙をスゥ…と静かにはいて困ったように笑った。


「あぁ、姉にますます似てきやがった」















それすら私のひどい嘘
















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